ガートナー ジャパンは7月11日、国内ICT市場規模予測に関する調査結果を発表した。これによると、2011年(暦年)のICT市場規模は、3月11日の東日本大震災の影響により、前年比でマイナス1.2%の28兆9800億円になるとしている。ただし、震災による需供への影響は一時的であり、2011年後半から徐々に回復し、2012年にはプラス1.2%の29兆3350憶円に回復すると予測している。
企業における2011年度のIT予算額の増減傾向は、震災前と震災後で比較すると、震災後に予算額を減少させたと答えた企業は8%未満で、90%が震災前から変更なしと回答、残りは増加と回答している。
一方、2011年のITプロジェクトのうち優先順位の高い上位3つを震災前後で比較したところ、予算の内容を変更した企業は全体の3割を超えており、東京とその他関東においては4割を超えた。変更内容としては、アプリケーションの投資プロジェクトを減らし、事業継続管理(BCP/BCM)関連の投資プロジェクトを増やす傾向が、優先プロジェクトの変化から明確に見て取れるという。
特に、従業員数2000人以上の企業では「事業継続管理(BCP/BCM)および災害復旧計画(DRP)」を見直す企業が44%、新規導入する企業が24%存在し、これを合わせると、BCPおよびDRPに何らかの投資を行う企業が7割近く存在することになると、ガートナーではみている。
消費者(個人)によるIT関連機器およびサービスへの支出額(主にPCや携帯電話関連)については、被災地域以外では主だった買い控えは見られなかった。ただし、強いマイナス要因はなかったものの、スマートフォン以外の携帯電話セグメントは飽和状態にあり、携帯電話市場全体では微減に留まるとガートナーでは見込んでいる。また、PCに関しては、東北地域の店頭向け出荷が制限された分を関西地域に振り分けるベンダーもあり、個人市場における震災の影響は軽微となった。2012年は、スマートフォンに関して個人と企業の両方でのニーズが高まり、携帯電話を含む機器とサービスを合わせたテレコム全体ではプラス1.7%になるとガートナーでは見込んでいる。
なお、企業向け調査においては、クラウドコンピューティングに関しても、震災後にプロジェクト件数の増加傾向が見られた。企業予算額における平均比率は小さいものの、2010年の1.4%から、2011年は1.7%へと増加している。内訳も、2010年は、クラウドコンピューティングに対する予算比率において、SaaSが8割以上を占めていたが、2011年はPaaSやIaaSへの予算が増える傾向も出ているという。
ガートナー ジャパン リサーチ ディレクターの片山博之氏は、予算額に対して、ほとんどの企業が震災前から変更なしと答えた理由について、「多くの企業で震災前に2011年度の予算額がほぼ決定しており、震災(計画停電含む)でビジネスに直接の大きなダメージを受けた企業以外は予算額を変更しなかったため」とした上で、予算の内容については、「ただ、このBCPおよびDRPの特需は一過性のものであり、2012年以降は、災害による事業継続に対する関心が低下し、新規の需要は小さくなっていくだろう。これまでクラウドコンピューティング導入を『検討中』であった企業が、震災によって2011年に前倒しで導入を計画しているとみている」とコメントしている。
なお、ガートナーでは、ICT市場規模を、企業と消費者がIT関連製品やサービスに支出する金額の総額と定義している。今回の調査では、暦年での調査結果を示しているが、年度ベースのユーザー調査結果も考慮した上での市場規模予測値になるという。同調査は、2011年4月18日~6月3日に実施したもので、日本全国の従業員数20人以上のITユーザー企業の中からランダムに約5000社を抽出し、各ユーザー企業の情報システム部門の責任者を中心にアンケート用紙を郵送、705社から有効回答を得たとしている。