奥田社長は、「SDPの法務部門、管理部門を強化すべきというのはその通り。SDPがシャープ本体から切り離されたあとも、法務や特許管理などに関する社員をSDPに出向させ、シャープ本体の当該部門と、ピッチャーとキャッチャーのような関係を構築する」とした。
シャープは、鴻海グループとの戦略的グローバル・パートナーシップの構築に向けて、鴻海グループへの第三者割当増資とともに、大型液晶事業の基幹工場である堺工場を運営するSDPの株式を鴻海グループに一部譲渡することに合意。さらに、凸版印刷および大日本印刷の堺工場における液晶カラーフィルター事業をSDPに統合、堺工場の操業安定とコスト競争力強化を図る方針を打ち出している。
今回の株主総会でも「2011年度の赤字の大半は、大型液晶事業に起因するものであった。大型液晶事業を新SDPに移管し、経営の安定化を図る」(奥田社長)として、大型液晶事業の再編について説明。パネル生産を行ってきたSDPに加えて、モジュールの生産および販売を行ってきた大型液晶事業本部をシャープ本体から切り出し、新SDPに統合することを示した。しかし、大型液晶に関する研究開発や生産技術の開発などについてはシャープ本体のなかに残し、技術の流出などを防ぐ体制を構築している点も改めて強調した。
庇を貸して母屋を取られることにならないか
今後の事業方針などについて説明した奥田隆司社長(モニター画像を撮影)
株主の関心は、シャープが鴻海グループの出資を得て復活の道を歩めるのかどうかという点だ。
そして、株主の心配事は「庇を貸して、母屋を取られることにもなりかねないのではないか」と質問した株主の指摘に集約されるといっていいだろう。
これに対して、奥田社長は「鴻海と協業をする以上は、我々がリーダーシップを取り、管理するところは管理することを実行していきたい」と回答する。
その点では、奥田社長が「対処すべき課題」として鴻海グループとの関係を説明。パワーポイント資料を用いてまで説明したことで、出席した株主の理解はかなり進んだともいえる。
奥田社長は「シャープの目指す方向」として、「自前主義からの脱却」「真のグローバル企業への成長」「サービスを含めた業態へ」「新たな需要の創造(新オンリーワン戦略)」の4つを示しながら、「エレクトロニクス業界においては、デジタル化、グローバル化といった大きな構造変革が起こっているが、シャープはこれに十分なスピード感をもって対応できなかった。また、開発、生産、販売、サービスまでを自前でやる垂直統合の強みが発揮できなかったことが業績悪化の要因」と前置きし、「液晶テレビをはじめとするデジタル家電製品は、生産規模の大小で勝負が決まる世界になっている。多少の技術的優位性は意味をもたない。年間100億台のデジタル機器を生産する鴻海グループと戦略的業務提携をすることで自前主義から脱却し、世界で勝てる仕組みをつくる。シャープのブランド、商品企画力、開発力を生かすために、鴻海の生産技術力、調達力、コスト競争力を活用する。さらに、デジタル家電分野での提携範囲を広げていくために、鴻海グループから約10%の資本出資を受け入れた」と語る。
だが、その一方でシャープの独自性についても改めて強調する。
「シャープは、新たなビジネスモデルに取り組むが、独自技術によって新たな市場創造を目指す姿勢は変わらない。『創意』を目指す経営にも変化がない」と語り、「鴻海グループからこれ以上の出資や役員を受け入れるつもりはない」などとする。
説明の最後に奥田社長は、「シャープは今年、創業100周年を迎えた。ユーザー目線の製品を、他社に先駆けて投入するのがシャープのDNAである。このDNAを徹底的に強化し、引き続き世の中にないオンリーワン商品を作る。そして、シャープはデジタル製品分野では逃げずに、グローバルで戦える世界企業を目指す。役員一同、今年は『シャープ復活の年』にするという覚悟をもって、一丸となって業務遂行にあたる」と力強い言葉で締めくくった。
厳しい口調で鴻海との関係や経営体質について質問する株主もいたが、全体を通じて、創業100周年を迎えたシャープが新たに生まれ変わるための大手術に挑んでいることを感じさせる内容になったことは確かだ。
今後は、この実行力が試されるとともに、鴻海との関係でシャープが強いリーダーシップを発揮しつづけることができるのかが注目されよう。
残念なのは、鴻海側が強いメッセージを発信するなかで、シャープ側からもう少し強いニュアンスで、あるいは具体的な取り組みを通じて、新たなビジネスモデル構築のなかでのシャープのリーダーシップの強さを伝えてほしかったという点だろう。
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