なぜヴイエムウェアは規模の拡大をめざすのか--パット・ゲルシンガーCEOが答える

冨田秀継 (編集部) 2012年11月05日 23時25分

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日本の自作PCマニアにファンも多いパット・ゲルシンガーCEO
日本の自作PCマニアにファンも多いパット・ゲルシンガーCEO

 VMware最高経営責任者(CEO)のPat Gelsinger氏が来日中だ。

 11月5日には日立製作所との戦略的提携を発表する会見に出席。6日には日本法人の年次カンファレンス「vForum 2012」に登場する。

 Gelsinger氏は1979年にIntelに入社し、EMCに転職する2009年までの30年にわたって同社に勤務した経験を持つ。半導体の設計や開発に従事し、80年代には一部プロセッサの設計責任者も務めた。同社での出世は順調で、2000年にはIntel初の最高技術責任者(CTO)に就任している。数々の業績から次期CEOの有力候補とされていた。

 また、Intelのテクノロジを代弁する存在として過去何度も来日している。日本でも自作PCユーザーの間で知名度が高く、またファンも多い。

 このように書くと、9月のCEO就任はVMwareの技術戦略を加速させるためではないかと考えてしまう。

 しかし、この人事はそう単純でもなかった。

もっとも破壊的な企業になる

 11月5日の来日会見でGelsinger氏は、「VMwareの弱点は何か」という質問に対して「成熟」という言葉を繰り返し使って説明に言葉を尽くした。

「これまでのVMwareは、会社としてティーンエイジャーだった。それゆえに成功もしてきたのだが、では企業としての成熟度はどうか。私の宿題は会社を成熟させることにある」(Gelsinger氏)

 VMware共同創業者のDiane Greene氏は、1998年の会社設立以来、10年にわたってCEOを務めた。この期間、VMwareは仮想化ソフトウェアベンダーとして頭角を現すとともに、仮想化というマーケット全体を開拓してきたともいえる。二代目のCEOであるPaul Maritz氏は技術戦略に長けており、指揮を執った4年間に多くの企業買収を手がけた。その結果、VMwareは仮想化ソフトウェアベンダーからデータセンターを構成する各コンポーネントの仮想化を志向するようになる。データセンター全体の仮想化を手がけようというところまで事業を広げることになった。

 このタイミングでGelsinger氏にバトンがわたった。

 そのGelsinger氏は「ビジネス慣行、そして対お客様(という営業面で)も成熟させて、今のビジネスの成長に見合った成熟度を達成しなければならない」という。

 先に述べたように、これらの発言は「弱点」を問われた際のもの。テクノロジを軽視しているわけではないので、その点には注意が必要だ。

 話を戻すと、Gelsinger氏はもっと規模を拡大させる必要があるとも言っている。VMwareが事業領域を拡大させていくにつれ、これまで競合ではなかった企業が同社の前に立ちはだかることになるからだ。MicrosoftとCitrix Systemsのような旧来の競合に加え、すでにOracleやIBM、Amazonとは一部で競合している。また、VMwareはメールやグループウェアをSaaSで提供する「Zimbra」や、企業向けのソーシャルメディアプラットフォーム「Socialcast」も買収しているため、今後は思いもよらない企業と競合する可能性があるだろう。

 そうした企業と戦っていくためには、規模を拡大させていく必要があるのだ。そして、その規模に見合ったガバナンスや組織運営が求められる。

「50億ドル以上を売り上げるソフトウェア企業は、いま何社あるだろうか。強い成長軌道に乗っていても、MicrosoftやOracle、IBMなどの主要企業と戦っていくことになる。AmazonやGoogleとも戦う必要があるだろう。であるならば、なおさら成熟していく必要がある。継続的に破壊的(disruptive)要素を提供していく必要があるのだ。VMwareはもっとも破壊的な企業になる。コンシューマーの分野ではAppleが根本的なイノベーターだった。VMwareはエンタープライズでイノベーターになる」(Gelsinger氏)

 ここで当然、一つの疑問がわいてくる。それは、はたしてGelsinger氏に大企業を経営できるのかという疑問だ。

 答えは「イエス」である。

「信頼」と「評判」

 イエスの理由は二つある。一つはGelsinger氏の業績から求められる。もう一つは、VMware自身がGelsinger氏を必要としているのだ。

 一つ目の理由については、あまり多くを述べる必要がないだろう。冒頭で紹介したとおり、Gelsinger氏にはIntelというハイテク業界を代表する大企業での経験が豊富にあるからだ。Intelはこれまでに何度か業績の浮き沈みを経験しており、Gelsinger氏も時には開発者として、時には経営幹部として、その浮沈を経験してきたはず。

 特にIntelでのキャリア後期には、シニア・コーポレート・バイス・プレジデント 兼 デジタルエンタープライズグループ担当ゼネラルマネージャーという要職についている。この肩書きは「部課長クラス」を意味するバイスプレジデントではなく、執行側の経営幹部である「副社長」ともいえる地位だ。世界各国に展開する大規模部門を経営した経験を持っているといえよう。

 また、VMware社員によると、Gelsinger氏はIntelで半導体の製造工程を改革した経験もあるという。ハードウェアの製造工程と組織運営を同列に語ることはできないが、業務プロセス改革のような現場向けの施策でも勘所を押さえたことを示す一例ではあろう。こうした経験がビジネス慣行の改革などにつながってくる可能性は十分にある。

 さて、もう一つの理由として挙げたのは、VMware自身がGelsinger氏を必要としているということだった。

 Gelsinger氏がIntel幹部としてさまざまな立場を経験してきたことはすでに述べた。ここで重要なのは、それがIntelに閉じた経験ではないという点だ。

 大企業の幹部ともなれば、他の企業の経営者や政府機関とのつきあいが必然的に生まれる。VMwareも大きく成長した企業だが、企業規模や歴史という点ではIntelが勝る。これらが複合的に評価されて生まれるのが「信頼」や「評判」だ。その結果として望むと望まざるとにかかわらず、さまざまなコネクションが生まれる。Gelsinger氏も米連邦通信委員会や業界団体で活動するなど、豊富な社外経験を持っている。

 VMwareは今後、さらなる成長を目指し、多様なコネクションを駆使してビジネス開発を進めることになる。そのとき「電話一本で政府に連絡を取り、要人と掛けあえる人材が今のVMwareにいるだろうか」と今年の夏にコメントしたのは、VMwareの事情に詳しい関係者だ。ここで、政府の委員会や業界団体に一参加者として出席したのではなく、Intel幹部として活動した経験が重要性を帯びる。

 実力主義や言ったもの勝ちの世界ともいえるIT業界、あるいは西海岸の自由な気風ではぐくまれたIT業界においても、経営トップの人脈は無視できない価値を持つ。これは、信頼や評判を重んじているということだ。西海岸のベンチャーキャピタルの動向をみても、自由であるがゆえにこれらを重視していることがよくわかる。

VMware自身がゲルシンガー氏を必要とした
VMware自身がゲルシンガー氏を必要とした

 以上の点から、Gelsinger氏には大企業を経営する力量が十分あるといえよう。もっとも、才能に恵まれていても成功を約束されないのがIT業界の面白いところだ。この点についてのキーワードを「disruptive」に求めてみよう。

対アマゾンでの優位性を強調

 先ほど「VMwareはもっとも破壊的な企業になる」という発言を取り上げた。「コンシューマーの分野でAppleは根本的なイノベーターだった。VMwareはエンタープライズでイノベーターになる」とも発言している。

 ZDNet JapanではGelsinger氏に、破壊的なテクノロジは競合他社の製品だけでなく、VMware自身が生み出してしまう可能性もあるだろうと質問。破壊的テクノロジが出現したときにどう対応するか、また、今どんなテクノロジが破壊的かを聞いた。

 前者に対する回答は、今日のIT業界ではさまざまな人が破壊的テクノロジについて述べているとした上で、VMware自身は製品面で十分に差別化に成功しており、「クールな技術」も積極的に取り入れているとした。

 後者については、AmazonとOpenStackの名を挙げて特にAmazonに警戒感を示した。

 「Amazonはパブリッククラウドで競合になっている」という認識だが、VMwareはユーザーのプライベートクラウド、パブリッククラウド、そして今日発表した日立のようなパートナーのクラウドの三者を連携させ、エンタープライズクラウド市場でリーダーになることを目指している。

 VMwareのパートナー向けプログラムでは、クラウドサービスを構築するためのソフトウェアと運用管理製品をVMwareが提供し、クラウド事業者はそれらを活用してサービスを構築する。それぞれの事業者のクラウド上に構築したアプリケーションは、インフラが同じ仕様で構築されているため、可搬性と相互運用性に優れる。

 また、各事業者にとっても、グローバルで顧客を獲得するチャンスがある。自国のユーザーとともにグローバル化する展開もあれば、他国の事業者と連携して自社のクラウドに乗り入れてもらうなどの可能性もあり、商機が拡大する可能性を持ったプログラムだ。このように、クラウド事業者とうまくエコシステムを構築することで、Amazonに対抗していきたい考えだ。

 こうした枠組みは「エンタープライズ向けのサービス提供で必須だ」とGelsinger氏は述べ、対Amazonでの優位性を協調してみせた。

 一方のOpenStackについては、競合ではあるが「脅威ではない」とGelsinger氏。「クラウド事業者がOpenStackを使いたいというのなら、我々もそれ(そのメリット)を享受していきたい」と述べ、「別の選択肢」であるとした。

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