独占インタビューを受けたアップルのティム・クックCEO
アップルのティム・クックCEOが、米国でMacを製造すると発表——。
今朝、起き抜けにそんなニュース記事の見出しを目にして大いに驚いた。
今年の春先に「米国製造業の北米回帰の流れ」を書いていたので、「アップルもいずれはそういう手を打ってくるだろうな」くらいの漠然とした予感があった。けれども、これほど早い時期にクックCEOが手を打ってこようとは……。
クックCEOが米国内での雇用や、中国にある製造工場の労働環境問題、さらには配当金の支払い開始などの株主対策と、実にさまざまな課題に対して、大胆に対処してきたことは周知の通り。
だが、「米国内での製品組立」という課題の解決には、それなりに時間がかかると踏んでいた。
この課題解決に必要とされる人材の確保と育成、さらにはアップルの場合なら態勢が整うまでは極秘裏に、そして慎重に事を進めるだろう——。
そんなふうに勝手に思い込んでいたから、このニュースには本当に驚かされた。また同時に、クックCEOのしれっと大胆なことをやってみせるその手際に、改めて舌を巻いた次第である。
今回のニュースは、NBC Newsとのインタビュー、それに(活字版では11ページにもなるという)Businessweek誌との独占インタビューのなかで明らかにされた。
Apple CEO Tim Cook announces plans to manufacture Mac computers in USA - NBC News
Tim Cook's Freshman Year: The Apple CEO Speaks - Businessweek
本原稿執筆時点では、NBC Newsの放送内容(動画)は目にしていない。一方、Businessweekの記事はざっと目を通したところであるが、CEO就任一年目を終えたクック氏の「総決算」といった印象が強い。これまでメディアで積極的に露出してこなかったクックCEOとしては、異例の対応である点はほぼ間違いない。
双方のインタビューの詳しい内容は別の機会にしっかり書くことにして、今回はこれらの記事を中心に、関連する一部の記事から目についた点をいくつか紹介したい。
米国「家電業界」創造を宣言
NBC Newsのブログには、「本当の意味で、これから米国で家電業界を立ち上げるんだ」というクックCEOの発言が引用されている。
"The consumer electronics world was really never here," Cook said.
"It's a matter of starting it here."
上記の言葉が示す通り、この背景には「現在の米国には家電業界(販売ではなく、製造まで含めたメーカー)が事実上存在しない」というクックCEOの認識があることがうかがえる。このブログのなかでは、以前にジョブズがオバマ大統領に語っていたとされる「必要とされる人材の不足を招いた教育制度の不備」——「スマートジョブ」のスペックを満たす人材供給の問題にも言及しているが、アップルではまずMacの組立関連に1億ドル以上を投じて、これを呼び水にしたい考え——自社の試みをうまく成功させ、それを目にした他社がアップルにならって製造拠点をアジアから米国内に移すようになれば、という目論見だそうだ。
Businessweekのインタビューに言及したBloombergの記事では次のように記している。
Apple Inc. plans to spend more than $100 million next year on building Mac computers in the U.S., shifting a small portion of manufacturing away from China, the country that has handled assembly of its products for years.
この米国での「組立作業」(assembly)が、人件費の安い中国でのそれと同じようなものにならないことはいうまでもない。
なお、この件に関して、さっそくフォクスコンでも米国拠点の拡充を検討するとBloombergは伝えているが、その際に人材の確保と並んで問題になるのが「サプライチェーンの構築」だというフォクスコン関係者のコメントがみられる。
"Supply chain is one of the big challenges for U.S. expansion," Woo said. "In addition, any manufacturing we take back to the U.S. needs to leverage high-value engineering talent there in comparison to the low-cost labor of China."
クックCEOの専門領域であるだけに、具体的にどういう展開を見せるかがとても興味深い。
さらに、この話とは直接関連しないが、アップルはクパティーノ(カリフォルニア)の新社屋建設のほか、テキサス州オースティンにも新しい拠点をつくる計画があるという。オースティンといえば「A」シリーズのプロセッサを製造するサムスンの工場もある場所。そうした土地柄を考えると、ボブ・マンスフィールド氏が取り仕切るハードウェアとモバイル端末関連の研究開発がこちらで行われるようになるのか、という可能性も思い浮かぶ。
ほかの幹部を立て、さらに自慢までするクックの「人柄」
個人的に興味深かったのは、この点だ。
ジョブズが90年代後半から2000年代はじめにかけて登場したインタビュー記事を複数目にした記憶があるが、その中には、たとえば本人が憧れていたボブ・ディランの名前は出てきても、アップルの同僚や部下の名前が出てくることはほとんどなかったように思う。
Businessweekとのインタビューのなかで、クックCEOは「ベスト・オブ・ブリードという言葉を使うのは嫌いなんだ」と述べつつ、「でも、自分が長年一緒に働いてきた連中——ジョニー・アイブにしても、ボブ・マンスフィールドにしても、それぞれの分野で世界一だ。クレイグ・フェデリッジ(OS担当幹部)にしても信じられないほど素晴らしい」と持ち上げている。そして、10月末の幹部入れ替えを経て、そういう連中が前よりもさらに協力して仕事を進めるようになった点を強調している。
「新しいものを生み出すのは全員で」という考え
「世界で最高の製品を生み出す」というジョブズ時代からの指針(バリュー)は代わっていないが、そのアプローチについて大きな考えの違いが見られる。
「アップルでは社員全員にイノベートする責任がある」といった発言がBusinessweekのインタビューに見られるからだ。
Everybody in our company is responsible to be innovative, whether they're doing operational work or product work or customer service work. So in terms of the pressure, all of us put a great deal of pressure on ourselves.
また、創造性あるいは創造行為、そしてイノベーションは、なんらかのプロセスのように「フローチャートに落とし込めるようなものではない」とし、「今ではたくさんの企業に『イノベーション担当部署』ができているが、そういうのができたり、『イノベーション担当VP』といった肩書きの社員がいたら、その会社で何かが間違っていることを示す記しだ」というクックCEOの考えも、また興味深いものである。
Creativity is not a process, right? It's people who care enough to keep thinking about something until they find the simplest way to do it. They keep thinking about something until they find the best way to do it. (略)... So just to be clear, I wouldn't call that a process. Creativity and innovation are something you can't flowchart out. ... A lot of companies have innovation departments, and this is always a sign that something is wrong when you have a VP of innovation or something.
このほかにも、
「1日に何千通ものメールがアップル製品のユーザーから届くことは、経営者としてほかでは味わえない『特権』だ」
「(15年ほど前の)アップル出社第1日目に、本社の前ではNewton廃止に抗議するユーザーのデモがあったのが忘れられない。それほど企業のことを気にかけてくれるユーザーが存在する例は、ほかに聞いたことがない」
など、「お土産」になりそうなエピソードが散りばめられている。
このBusinessweekの記事とNBC Newsのインタビューについて、The Vergeは「もっぱら投資家向けのもの(株価対策)ではないか」と推測しているが、いずれにせよ、今回の一連のインタビューが後々まで、さまざまな場所で引用されることになるのは、ほぼ間違いないといえよう。
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