独SAPといえば、何が最初に思い浮かぶだろう。おそらくは統合基幹業務システム(ERP)。SAPは正にERPの代名詞と言われるほど多くの実績を築いてきた。
そのSAPが、クラウド事業へと、大きく舵を切った。今後、ここでの1つの軸となるのが、2012年2月に買収したSuccessFactorsと言われる。人材管理や人事関連アプリケーションのSaaSベンダーとして知られる。SAPがクラウドをどのように展開していくのか。その戦略を、SuccessFactors 共同創設者兼最高技術責任者のAaron Au氏に聞いた。
変化するクラウド導入目的、コスト低減化よりイノベーション加速化に重点
--SAPのクラウド事業の基本的枠組みはどうなっているのか?
SuccessFactors 共同創設者兼最高技術責任者のAaron Au氏
SAPのクラウド全体像をみると、「People」についての部分を、SuccessFactorsのソリューションが担う。「Customers」の領域には、SAPが独自に開発したCRM(顧客情報管理システム)がある。「Money」にかかわるところは、SAPが長年手掛けてきたFinance OnDemandが位置する。「Suppliers」向けは、SAPが買収したAribaの製品群がある。クラウドマーケットプレイスは、パートナーがSAPクラウドを活用する領域となる。日本では6月に発表した「SAP HANA Enterprise Cloud」は、マネージドプライベートクラウドであり、ERPなどがクラウドサービスとして使える。
さらに、ソーシャルコラボレーション機能を担う「SAP Jam」があり、そしてビジネスネットワークがあり、基盤としてこれらを支える「SAP HANA Cloud Platform」の上に載っている。
--クラウドへの注力を決意した背景には何があったのか?
すべてのプラットフォーム戦略を展望してみるとき、企業がなぜ、クラウドを導入するかを考えると、変化がみえてくる。いまや、コスト削減が第一の目標ではない。彼らが抱えている課題はビジネスの現場で、いかにして迅速な行動をとるか、イノベーションをどう加速させるか、激しい競争状態が現出し、いかなるビジネスであっても世界中に競合が存在していることなどだ。
IT部門はイノベーションを加速させなければならない。ここで、クラウドのソリューションにより、インフラ管理、ソフトウェアとサービスを組み合わせた短期導入ソリューションなどを活用することで、早くイノベーションを進められる。
--SAPのクラウドは競合とどこが異なるのか?
プラットフォームはアプリケーションにだけ必要ではなくて、ソーシャルやモバイルでも使えなければならないし、ナレッジ共有も可能でなくてはならない。多くのビジネスでは、そのビジネス特有の要件であるとか、業界特有のやり方、サービス提供の仕方がある。顧客やパートナーとの契約、ビジネスプロセス、それらもビジネスごと、業界ごとに異なる。これまでのクラウドはユーザーから見て、柔軟性に欠け、コントロールし難いものだった。そこで、われわれはクラウドの構造を見直し、ソフトウェア自体をニーズに応じてテイラーメイドにしたいと考えた。