これまでの連載 で、個人利用では既に一般的な存在となったモバイルデバイスが企業における活用を検討する際に重要なことについて言及した。さらにその導入や活用にあたっては熟慮されないまま導入されてサービスが活用されていない実態や、心理的抵抗の大きさがあり、デバイスやツールそのものの責によるものではなく、導入する側の目的意識に強く依存することを説いてきた。
第5回となる本稿ではモバイルデバイスを企業活用する時の基本的コンセプトであり、本連載のタイトルでもある「エンタープライズモバイル」について検討すべき考え方について言及する。
導入目的
これまでのIT導入では、業務プロセスのばらつきや人的依存性の高さに対し、行動を標準化することを主眼とし、ITツールをベースに生産性向上やコスト削減などを目的としてきた。これにより、第1回でも述べたように、工場などのブルーカラーはもちろん、デスクワーク中心のホワイトカラー向けには一定の目的が達成されたと言えよう。
しかしながら、モバイルITの時代には前述のような生産性向上やコスト削減の標準化ベースがある前提で、さらに競争力を強化することを主眼としたITツールの導入が求められる。その場合、生産性向上やコスト削減は当たり前で、主たる目的とはなり得ない。
これまでのITとは異なるモバイルIT導入の考え方
モバイルIT時代の導入目的は「事業スピードの高速化、リアルタイム化」「新たな価値、市場、顧客、商品を生み出すイノベーション強化」「時間や場所、リソース制約を問わないスケーラビリティの担保」の3つに集約される。これ以外の目的は既存のITの焼き直しか、そもそもモバイルを検討する以前のレベルでとどまっているかのどちらかである。まずはこの目的を図のように明確にする必要がある。
導入業務とアプリケーション
PCでできる業務やPCの方が生産性向上などに優れている業務は、アプリケーションの領域で強制的にモバイル化を模索しようとしても、いずれ使われなくなるか、使い勝手の悪さを強いて生産性が低下するかのいずれかである。PCの方が生産性高く、圧倒的なコスト優位性がある業務やアプリケーション領域では、目的なしにモバイル化を推進してはいけない。
モバイルに向いている業務やアプリケーションは、リアルタイムのフィードバックが要求されるものやその場で理解される必要がるもの、その場で他社とのやりとりが完結するものなどがある。顧客接点向けに活用されることが多いのは、これらの条件を一通り備えているからに他ならない。
一方で、一覧性を重視する業務や細かいデータやデザインをチェックする業務、大量データを扱う業務はアプリケーションには向いていない。バックオフィスに導入して使われていないというのは、目的が明確でないばかりか、こうしたモバイル向けの業務特性が勘案されていないからと考えられる。