このようにして、個人デバイスの持ち込み(BYOD(Bring Your Own Device)も視野に入れた場合、散逸しがちなモバイルガバナンスに対して、トータルガバナンスを担保した上で、開発標準化も視野に入れたエンタープライズ向けのモバイルアーキテクチャが必要となる。これが「エンタープライズモバイル」を考える上での総体的なコンセプトである。
「エンタープライズモバイル」の目指す本質
エンタープライズモバイルは、企業のアプリケーションやITシステムのあり方のみならず、業務やワークスタイルそのものも、そしてその延長として個人のライフスタイルとのワークライフバランスの実現をも目指す、拡張性にあふれた考え方だと言える。
エンタープライズモバイルが本質的に目指す姿は、これまでの行き過ぎた、コモディティレベルまで進んだ生産性至上主義から、移動性とリアルタイム処理に優れたスピーディな業務処理により、アイデアを何度も実行することを可能とする、トライ&エラーを許容する創造性重視への企業風土へのトランスフォーメーションである。
創造性重視への企業風土へのトランスフォーメーションを前提に置くと、いつでもどこでもアイデアを行動に移すことができることを可能とするためにもBYODなど、パーソナルユースとオフィシャルユースがシームレスに融合する環境が求められる。これはいたずらに労働時間を拡張する考え方ではなく、バランスを取ることが求められる、非常に自律的かつポジティブなワークスタイルを意味する。
エンタープライズモバイルが本質的に目指す姿
さらに、そのような環境下においては、現状使われているスマートフォンとタブレットのようなモバイルデバイスのみならず、第2回でも述べたように、今後激増するマイクロデバイス(ウェアラブル、環境に実装されたセンサーデバイス群)との相互連携により、個々人のパーソナルな能力をスケーラブルに増幅させることにデバイスパワーが使われるようになることでもある。
今後、エンタープライズモバイルが当たり前の世界となることで、より一層こうしたワークスタイルやライフスタイルの本質に近づいていくことだろう。
次回以降では本稿で述べたエンタープライズモバイル実現のさまざまな要素について個別に落とし込んだ上で、具体例を交えながら言及することとする。
- 八子知礼(やこ とものり)
- デロイト トーマツ コンサルティングパートナー 情報・通信・メディアセクターリーダー。通信、メディア、ハイテク業界を中心に、新規事業戦略立案、CRM/顧客戦略立案、商品/サービス/購買戦略、バリューチェーン再編などのプロジェクトを多数手掛けている。著書に『モバイルクラウド』『図解 クラウド早わかり』(いずれも中経出版)、そのほか寄稿・講演多数。
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