屋外でのネット利用がもたらすもの
モバイルコンピューティングという単語や構想は、20年ほどは前から流布しはじめた。いや、考え方自体は、さらに以前からあったと言えるだろう。コンピュータ技術の進化に伴い、小型化が進み持ち運びが可能なノート型PCが市場に現れたのは、1980年代末だ。その頃の製品は本体重量が3㎏近くあり、実際に携帯して使うことは現実的ではなかった。
ノートPCは小型軽量化しインターネットは広く普及、その通信速度は著しく向上している。野外や移動中でもインターネットを利用できる環境が整い、モバイルコンピューティングを実用レベルで利用できるお膳立てはできた。そしてモバイルコンピューティングを現実のものとするのに大きく貢献したのは、スマートフォンやタブレット端末だろう。特にスマートフォンは格段に軽く身につけていても苦にならない。その普及がインターネットの使われ方を激変させ、急速な進化をもたらしたと言えよう。
スマートデバイスのさまざまな使い道
スマートフォンやタブレット端末の台頭はビジネスの分野にも変革を起こし、コンピュータが使われていなかった領域への進出が始まった。ある航空会社の客室乗務員向けマニュアルは1000ページ、2Kgもの分量があり、その内容は2カ月に1度、100ページが差し替えられる。客室乗務員たちはマニュアルへの書き込みや付箋を貼るなどの作業を改定の度にやり直しており、この作業には1時間かかる。そこで、iPadを導入したところ重量は700g弱に、最新版への改定は数分で済みようになった。目覚ましい効率化が達成されたことになる。
損害保険業界での例もある。スマートデバイスにはカメラのほか、ジャイロセンサが搭載されているため、加速度や角度などを検知できる。損保業界は東日本大震災で多数の家屋の損壊状況を調査した。調査員は建物の傾き状況を調べ、現場の写真を撮影しレポートを作成する。これら一連の作業には、PCやデジタルカメラ、水平器などが不可欠だったが、今やiPadだけで完結できる。保険支払金の調査業務の迅速化につながる。
POS端末も、タブレット端末が浸透しやすい分野だ。中堅中小企業では受発注システムや多様な専用端末を扱っているが、高コストで柔軟性が低いのが現状だ。ここにタブレット端末が進出すれば市場としての成長性が高くなるとともに、SI事業者にも新しいシステム構築の需要が出てくるという。IDC Japanが4月に実施した、企業や公共機関などを対象とした調査では、タブレットの法人利用は2014年後半に教育やサービス、流通、小売といった分野で大きく成長する機会があるという。2014年以降、スマートデバイスのビジネス活用はさらに加速することが見込まれる。