分裂危機のイラク、日本株に与える影響

ZDNet Japan Staff 2014年07月09日 10時53分

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 イラクが、分裂の危機にある。現政府(マリキ政権)の力が及ぶのは、イスラム教シーア派が支配する南部地域だけになっている。楽天証券経済研究所のチーフ・ストラテジスト、窪田真之氏がこの問題による影響を解説する。

(1) イラクは3分裂の危機

 イスラム教スンニ派の武装勢力は、徐々に支配地域を拡大し、ついにイラク西部と隣国シリアの支配地域を合わせた「イスラム国家」の樹立を宣言した。また、北部を実効支配するクルド人は、数カ月以内に独立の是非を問う住民投票を実施する意思を示している。クルド人は自らの国を持たない民族で、独立は悲願だ。このままで行くと、イラクは3つの国家に分かれることになる。

(2) 分裂危機が起こった背景

 背景には、イスラム教シーア派とスンニ派の宗派間の長い対立がある。イラク戦争終結後、2006年に処刑されたサダム=フセイン元大統領は、スンニ派アラブ人だ。

 イラクは、フセイン政権が崩壊するまで、スンニ派が支配する。人口の約6割を占め、多数派であるシーア派は、長くスンニ派の弾圧を受けてきた。

 フセイン政権崩壊後は、米国の監視下でシーア派主導の新政権が作られた。マリキ政権がシーア派による支配を強めつつある中で、スンニ派の不満が高まりつつあった。2011年12月に米軍がイラクから完全撤退してから、イラク情勢は不安定化し、ついに内戦に至った。

(3) 指導力を発揮できない米国

 米国は、事態を憂慮し、何らかの介入を考えているが、単純にシーア派マリキ政権を擁護するわけにはいかない。米国が制裁を続けるイランは、シーア派が支配する国だ。イランは既にマリキ政権を援助する方針を出しているが、米国はイランと同調行動を取るわけにいかない。

 イランは、1979年まで親米路線のパーレビ王朝が支配する国だった。ところが、1979年2月にシーア派によるイラン革命が起こり、イスラム法学者ホメイニ師を指導者とするシーア派政権が誕生した。この時、シーア派革命の波及を恐れるムードが周辺国に広がる中で、1980年12月にスンニ派のフセイン政権が支配するイラク軍が国境を越えてイランに進攻した。

 それが、1988年まで続き、勝敗なく終わったイラン=イラク戦争だ。イラクでフセイン政権倒壊後にシーア派政権が誕生したことは、イランとイラクの関係改善に大いに寄与した。

 現在、イラクでスンニ派反政府勢力が攻勢を強める中、イランはマリキ政権を援助する方針を明確に打ち出している。一方、米国は、態度を明確にすることをためらっている。米国は、イラクではシーア派が主導するマリキ政権を擁護する立場にあるが、他の中東諸国ではシーア派と対立してスンニ派を支援する立場にあるからだ。

(4)サウジアラビアに配慮する米国

 米国が最も気を使うのは、親米路線を取るサウジアラビアだ。サウジはスンニ派が主導する国で、もし米国がイラクでスンニ派武装勢力を空爆すれば、サウジアラビアのスンニ派とも敵対することになりかねない。サウジに限らず、親米路線をとるペルシャ湾岸の産油国(UAE・カタール・バーレーン・クエートなど)はほとんどスンニ派が支配している。

 イラクのスンニ派を攻撃すれば、親米国のスンニ派をすべて敵にまわすことになりかねない。米国は、イラクで苦戦するシーア派主導のマリキ政権を既に見捨てている可能性もある。

(5) 原油価格への影響

 内戦の影響でイラクの原油生産が減少する懸念から、一時原油価格が急騰した。ただし、原油価格が継続的に上昇するとは考えられない。リビアなど原油生産に余力のある産油国は多数あり、仮にイラク原油生産が停止してもカバーできると考えられるからだ。また、米国がシェールガス・シェールオイルを増産していることもあり、原油価格上昇が長期化するとは考えていない。

(6)世界の金融市場および日本株への影響

 原油価格が高騰することがなければ、世界の金融市場および日本株へ与える影響は限定的と考えられる。

 ただし、日本が官民を挙げて進めてきたイラク復興のためのインフラプロジェクトには悪影響が及ぶだろう。早期の終結が見えないイラク情勢から、しばらく目が離せない。

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