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山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

「絶対に騙せない指紋式タイムレコーダー」と「絶対にバレないニセ指紋」--労使間の熱き戦い

山谷剛史

2014-08-26 06:30

 近年、電脳街ではタイムレコーダーが売られるようになった。特に指紋式タイムレコーダーをよく見かける。タイムレコーダーは中国語では「考勤機」という。「淘宝網(Taobao)」などのオンラインショッピングサイトで検索するといろいろ出てくるので、どんなものが売られているのか興味があれば検索してみよう。指紋式でも100元(約1650円)から各社メーカーの製品が販売されている。一部の導入した企業は「遅刻1回20元」「遅刻10分につき10元」給与から減額されるなど遅刻に対して厳しい罰則を設けている。

 中国人スタッフが怠慢だからタイムレコーダーを設置する企業が増えた、というだけのことではないことに留意したい。北京上海広州深センでは地下鉄網が発達してきたとはいえ、まだまだ鉄道空白地帯から通勤する人は多い。また杭州や成都、西安など、地下鉄は開通はしたものの恩恵を受ける人はほんの一部という地域もあるし、そもそも地下鉄がない都市の方が多い。各都市での交通渋滞はひどく、路線バスに乗ったところで思った以上に時間がかかり遅刻することはよくあること。時刻表通りにやってくる日本のバスは、訪日した中国人が感嘆するポイントの1つだ。

 なぜタイムレコーダーではなく指紋式タイムレコーダーかというと、遅刻した人の代わりに同僚がカードを挿すという行為があるからだ。だが、その指紋式タイムレコーダーを破る指紋複製サービスが登場している。淘宝網で「指紋膜」「指紋のり」を中国語で検索すると、500円前後、あるいはそれ以下の値段で様々な指紋式対策商品が売られている。

 指紋複製に対し、「ニセ指紋ではこのタイムレコーダーは騙せない」という、バージョンアップされたタイムレコーダーが登場。さらに、それに対して新素材を用いた「あらゆるタイムレコーダーを破る」という謳い文句のニセ指紋作成者も登場する。「絶対に騙せない指紋式タイムレコーダー」と「絶対に騙せるニセ指紋」のいたちごっこが起きているのだ。もっともニセ指紋については、それ自体が、謳い文句だけが立派なニセモノだったり、新素材と称したものが人体に有毒だったりするケースがあるので悩ましい。

 職場のタイムレコーダーに替え玉が指を出したことで問題になったニュースを1つ紹介したい。2014年4月、浙江省の病院で、看護師が替え玉となって指紋式タイムレコーダーに指をさしているところを来客に見られて問題となった。「この病院は医師や看護師がいると称して、タイムカードのデータを偽造しているとはどういうことだ。いるはずのかかりつけ医や看護師がいないかもしれない病院なんて信用できない!」ということである。

 こうして、タイムレコーダー破りや破られる恐れが発見されると思わぬところに余波が広がるケースも。たとえば、2014年6月の河南省では、センター試験に相当する「高考」での話が話題に。ハイテクを駆使したカンニングが横行するテスト会場の入場チェックを指紋式にしたことで、「指紋膜」による替え玉受験があったのではないかと話題になり、ニュースでも報じられた。

 タイムレコーダーだけに限らず、指紋に関わる様々な場所でニセ指紋は使われる可能性を秘めている。指紋認証だけではセキュリティ対策として不十分といえよう。遅刻対策のためのニセ指紋がさらなる不正に利用されてしまうことも。2014年4月には、重慶の会社で、会社員が同僚3人の積立金をニセ指紋を活用して計13万元(約215万円)取り出すというニュースが報じられた。遅刻対策のためニセ指紋を作って同僚に渡したら、もっと大事が起きてしまったということか。

 指紋式タイムレコーダーとニセ指紋は、市民の一部が認知している状況だが、法の整備は追いついておらず、違法性はない。一部サイトでは販売が禁止されているものの、歯止めはきかない状況だ。日本も他人事ではないわけで、指紋認証だけでセキュリティ万全とは思わない方がいいだろう。

 さて中国のオフィスでは、タイムレコーダーを指紋式から顔認証式に変更するところも。いまだ破るパッケージは(できているのかもしれないが)販売されていない。サラリーマンからは「遅刻ができない!」といった叫びのほか「指紋認証なら1回でパスできるのに、顔認証になってからパスに何回もかかる!」といった苦情も出ている。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレ ンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行 う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団 結する若者たち 」など。

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