「Social Physics」ブックレビュー:イノベーション、交流、そしてデータに基づいた統制とは

Wendy M Grossman  (ZDNet UK) 翻訳校正: 藤本京子 2014年10月24日 06時00分

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 これは特にアメリカ的な考えかもしれないが、優秀な新しいアイデアというものは、飛び抜けた天才にしか生み出せないものだという神話がある。これはある意味都合のいい見解だ。飛び抜けた天才などそうたくさんいるわけではないが、もしいれば勝ったも同然。社内に1人天才がいるのなら、成功の秘訣を手に入れたと言っていい。しかも、その秘訣は他の誰にも手に入れられないものなのだ。

 Steven Johnson氏の著書「Where Good Ideas Come From」(「良いアイデアが生まれる場所」の意)や、ここで紹介するマサチューセッツ工科大学(MIT)教授Alex Pentland氏の著書「Social Physics: How Good Ideas Spread -- The Lessons From a New Science」(「社会物理学:新たな科学から学ぶ良いアイデアが広まる仕組み」の意)によると、アイデアをどんどん生み出すには、皆が自然に関わり合うことのできるインフォーマルな環境が必要だというのだ。


Social Physics: How Good Ideas Spread - The Lessons From a New Science ● 著者:Alex Pentland ● 出版社:Scribe ● 300ページ ● ISBN: 978-7-922247-55-1 ● 14.99ポンド

 Johnson氏は、すばらしいアイデアというものは、半分できあがったアイデア同士がぶつかり合った時にできるものだと主張している。一方、MITメディアラボの設立に関わり、監督者でもあるPentland氏は、世界経済フォーラムに参加していた資金提供機関や大学関係者、企業の最高経営責任者(CEO)、政府首脳の誰1人としてこの原理を理解していないと感じている。

 不満に思ったPentland氏は、社会的交流に関する科学的なフレームワークを作ろうとした。そして同氏は、10年かけてさまざまな学術論文を執筆し、スタートアップ企業を立ち上げ、この著書を書き上げたのだ。

 Pentland氏はまず、米国有数の研究グループであるベル研究所を取り上げている。同研究所の内部調査によると、優秀な人物は人との交流がさかんで、幅広い人脈からさまざまなことを学ぼうとし、新しいアイデアの源を受け入れようとする人物だということがわかった。またPentland氏は、影響というものは社会的に発生するとしている。つまり、人が自らの行為を変えようという気持ちになるのは、あまりパーソナルでない手段で個別に標的にされた時よりも、自分の友達が同じことをしているのを見た時の方が大きいというのだ。

現実を掘り起こす

 Pentland氏は、彼が言うところの「現実の掘り起こし」であるビッグデータを初期の頃から推進している。同書の中でPentland氏が提案しているのは、センサーを幅広く取り入れ、無数のデータの痕跡を活用することによって、人が交流する方法の基礎が一体何なのかを見極めることができるというものだ。

 センサーや「デジタル神経系」こそが、われわれの直面する多くの課題を解決するとPentland氏は述べている。その課題とは、気候変動、エネルギー供給量の維持、食物と水を確実に入手する方法といったものだ。しかし、持続可能な未来の社会では新たな「神経系」が必要だ。社会物理学がその神経系を正しく作動させ、市場や階級とはならないもののアイデアを生み出す場所となるであろう街をサポートしていくのだとPentland氏は言う。

 英BBCの「The Secret History of Our Street」(「我が町の隠れた歴史」の意)シリーズを見たりその関連図書を読んだりしたことのある人であれば、ビクトリア時代の社会研究者Charles Booth氏のことを知っているだろう。同氏は長年に渡り、一連の地図を描くことでロンドンの貧困について研究した人物だ。その手法は当時のデータ駆動型アプローチだったが、同氏の研究により貧困と高齢者の関係性が明らかとなり、高齢者年金の導入にもつながったのだ。

 Pentland氏は、安全にデータを共有することで「よりデータに基づいた統制や政策が必然的に生まれるようになる」と考えており、それがより良い社会的結果をもたらすとしている。なぜならば、どの政策がどの程度うまくいっているのか、ほぼ瞬時にフィードバックを得ることができるためだ。ただし、社会物理学が政治的な意思を創造できるかどうかについては、もう少し調査が必要だ。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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