小さな漁村、大きな野望--「世界のハイテク工場」中国・深センの過去と未来(前編)

Steve Ranger (TechRepublic) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2014-12-19 06:30

 深センのとある夏の夕方。外は暑いが、Appleストアの店内は過ごしやすい温度に保たれている。売り場では若い客たちが、90年代初頭の英国のインディーズ音楽に合わせて体を動かしながら、スマートフォンを品定めしている。彼らが聴いている曲が作られた時、彼らはまだ生まれていなかった。それどころか、1200万人を数えるこのメガシティの多くの住民が、まだ生まれていなかったのだ。

 深センはほんの35年前まで、海の向こうに見える裕福な香港をうらやむ海岸沿いの小さな漁村にすぎなかった。しかしその後、鄧小平によって中国初の経済特区、すなわち海外からの投資と起業が奨励される地区に指定された。

 それ以来、深センは急速な成長を遂げ、世界最大の都市の1つに数えられる壮大なメトロポリスに発展した。またその過程で、世界のIT業界における製造の中心地にもなった。シリコンバレーが世界のソフトウェア業界を支える礎だとすれば、深センは世界のハードウェア業界を支える礎だ。


 今日では、この都市の海岸通りに建ち並ぶビルのシルエットは深セン湾に沿って広がっており、香港に匹敵するほど印象的な景色を作り出している。また、Appleストアのあるダウンタウンの巨大モールには、欧米の超高級ブランドを扱う店が軒を連ねており、屋内アイススケート場まである。筆者は数千ドルもする派手なシャツを販売する店の中をじっくり見て回った。平日のラッシュアワーに差しかかっているため、外は高級スポーツカーや輸入4WD車がバスと車線の奪い合いをしている。こういった光景もIT製造業が街にもたらした豊かさの象徴と言える。

 歩道は木の葉で覆われ、幹線道路沿いには街路樹が植えられており、巨大かつ壮大な公共建築物が建ち並んでいる。しかし、無邪気に恋に落ちてしまうような街ではない。深センはあまりにも急速に成長したため、その脈打つ心臓部を見つけることが難しいのだ。とは言うものの、その凄まじいまでの野望は疑いの余地がない。先ほどの高級モールでは、都市のはずれにある丘陵地で既に建築が始まっているマンションのモデルルームも展示されている。

 深センはFoxconnのような巨大製造企業の拠点として知られているが、さまざまなガジェットの部品から完成品に至るまで、あらゆるものを製造する数多くの小規模工場もこの地を拠点にしている。この都市は数十年にわたって電子機器をひっそりと作り続けてきたが、今日ではハードウェアの新興企業が集まる場所に、そして世界を舞台に活躍しようとする中国最大規模のIT企業のいくつかが拠点を置く地へと再び変貌を遂げようとしている。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. ビジネスアプリケーション

    生成 AI 「Gemini」活用メリット、職種別・役職別のプロンプトも一挙に紹介

  2. ビジネスアプリケーション

    AI活用の上手い下手がビジネスを左右する!データ&AIが生み出す新しい顧客体験へ

  3. ビジネスアプリケーション

    急速に進むIT運用におけるAI・生成AIの活用--実態調査から見るユーザー企業の課題と将来展望

  4. ビジネスアプリケーション

    インシデント対応における生成AIの活用に脚光、調査レポートから見るインシデント管理の現状

  5. セキュリティ

    まずは“交渉術”を磨くこと!情報セキュリティ担当者の使命を果たすための必須事項とは

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]