深センで製造されているのは部品だけではない。「山寨」(さんさい)と呼ばれるあけすけなデザイン文化のおかげで数多くの製品が地元で設計、製造されてもいる。Appleの「Designed in California」(カリフォルニアでデザイン)という売り文句は、「深センでデザイン」に置き換えられつつある。欧米のアクセラレーターたちは、迅速かつ安価にハードウェアを手に入れるために、深センのノウハウを活用しようとしているのだ。
その一例がHAXLR8Rというアクセラレータープログラムだ。これは深センの製造エコシステムを使うことで、どこと比べても大幅に安く(そして迅速に)製品のプロトタイプ作成と製造が可能になる環境を起業家に提供するというものだ。
このプログラムでは、起業家は深センに3カ月間にわたって滞在し、プロジェクト作業を遂行する。米国で製品を開発すると莫大なコストがかかる場合もあるが、このプログラムの対象企業は、初期のアイデアから最終製品に至るまでの工程を航空運賃と生活費込みで2万ドルで済ませることを目指す。そして、製品化にこぎ着けたら、次は販売に向けたクラウドファンディングに移る。
HAXLR8Rを創設したCyril Ebersweiler氏は、このプログラムで深センが重要となる理由を説明した。同氏は「この地にとどまれば、プロトタイプを迅速かつ安価に、そして効率よく作成できるうえに、その作業と並行して製品化を進められるため、より短期間で製品を市場に送り込めるようになる」と述べたうえで、「ここでは何でも12〜24時間で手に入るため、プロトタイプの作成がより迅速になる」と語った。
また深センにいれば、最終製品で使用される部品と同じ部品を用いて作業を進められる(つまり製造工程に入ってからの予期せぬ事態を減らせるようになる)とともに、サプライチェーンの懐の深さによって極めて専門的なサプライヤーを見つけられるようにもなる。同氏は「自転車のハンドルに特化した工場も見つけられる。自転車ではなくハンドルを専門とする工場だ」と述べた。
さらに、製造業者とより密接に連携できる。Ebersweiler氏によると、まったく新しい製品の開発では、製造工程は後付けで考えるべきではない。製造業者は新興企業にとって、むしろ最も重要なパートナーだ。同氏は「彼らはあなたの製品を製造する。この段階ではあなたの新興企業は彼らのものでもあるため、いざとなって慌ててパラシュートを装着するように拙速で製造に取り組んでもうまくいかない」と主張した。
Ebersweiler氏によると深センは昔、模造品や製造品質の低さで知られていたが、ここ数年で大きく改善した。その理由として、この地域の製造業者を利用してきた多くの企業の1つであるAppleの影響が挙げられる。同氏は「顧客の期待は急上昇した」と述べた。その結果、工場は品質の低い部品を提供できなくなったというわけだ。
開発中の製品に手軽に組み込める小型のWi-Fi開発キットを製造する企業Sparkの創業者であるZach Supalla氏もHAXLR8Rプログラムの適用を受けた起業家の1人だ。