LINEと競合するメッセンジャーアプリで、中国名「微信(Weixin)」、英名では「WeChat」というアプリがある。リリースする騰訊(Tencent)は、現在の中国ネット業界を代表する企業の1社だ。同社がリリースするメッセンジャーの「QQ」は、中国では最もメジャーなネットの連絡手段だが、それが今はQQから微信に変わりつつある。
「騰訊(Tencent)」の2014年第3四半期(7~9月)のデータによれば、「微信のアクティブユーザーは4億6800万であり、QQのアクティブユーザーは8億2000万、モバイル向けQQのアクティブユーザー数は5億4200万」だという。WhatAppの6億、Facebook Messengerの5億に肩を並べる数字だ。
大都市では微信が、地方ではQQが使われる傾向があるという。さらにはインドでも利用者を増やしている。ちなみにLINEは先ごろ、登録ユーザー数が5億6000万人で、月間アクティブユーザー数(MAU)が1億7000万人であることを発表している。
この四半期での微信の機能追加に、一般企業が情報告知などに使うオフィシャルアカウント「公衆号」で、情報の閲覧数が公開されるようになったことが挙げられる。これまでは特定の公衆号の広告価値は登録ユーザー数ではかられていたが、閲覧数が公開されたことで、さらに分かりやすくなった。公衆号は約600万あり、毎日1万以上増加しているとし、また微信での広告主は8000を超えると同社は述べている。
さて中国では、微信に限らず、あらゆるSNSサービスに対応した、フォロワー、掲示板のレス数、記事のビュー数が売買されている。これらを売買する人を「刷客」、こうしたルール違反な舞台裏の産業を「黒色産業」と呼ぶ。
たとえば微信の前に普及していたミニブログ「微博(Weibo)」においては、フォロワーが安価で売買されていることが問題視された。twitterでもフォロワーは売買できるが、それよりもずっとあからさまに、オンラインショッピングサイト「淘宝網(タオバオ)」などで売買されている。またたとえば、淘宝網での特定の商品購入数を増やしたり、取引数を増やして評価を上げるためのサービスが淘宝自身で売買されている。微信に関しても、淘宝網で「微信」で検索すればアカウント売買のページに苦労せずたどり着く。
微信がアップデートされ、公衆号の閲覧数が公開されたことにより、一部のアカウントでは登録ユーザー数は多いのに、みなサクラアカウントで、公衆号から発信した記事のビュー数は不自然なほど少なく、リアルなユーザーは少なかったという現実に直面した。リアルユーザーが1割で、ダミーユーザーが9割という専門家の意見もある。
公衆号の閲覧数公開により、フォローするだけのゾンビアカウントが露わになることで、問題が解決するわけではない。アカウント業者は、記事を読んでくれたり、自然なレスを書いたり、転載するサクラアカウントをも販売する新対策を打ち出した。「500回アクセスが5元」「記事内リンクにアクセス100回で8元」「グループチャットにシェア100回で25元」「1000回転載で80元」など様々なサービスを販売している。
億単位のユーザーが利用し、金が絡みだすと、必ず起きるのがサクラアカウントの売買だ。騰訊はQQアカウントの売買に頭を悩ませてきたし、微信の前には微博に力を入れていたのだから、想像できなかったはずがない。LINEやWhatsAppとの世界市場での競争を前に、新規ユーザー獲得のために、騰訊がグレーゾーンに足を踏み入れたのか、というところだが、騰訊は「微信公衆平台運営規範」というルールを定め、また1000万元の対策費をだし、2014年の上半期で365万の「悪意あるアカウント」を凍結し、取り締まりを行う態度は見せている。
微信のサクラアカウント取引問題は、夏以降様々なメディアで問題提起されるようになった。騰訊が意図したものか、意図してないものかは内部のみぞ知るところ。微信のユーザー数は公式発表の数字であれ、鵜呑みにはできない。しかしその鵜呑みにできない利用者数に引き寄せられ、微信を利用しはじめるユーザーは世界中にいる。
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。