日本IBMが先頃、企業向けデータ分析サービス「Watson Analytics」を発表した。このサービスには、企業システム事業の拡大に向けたIBMの大いなる野望があるようだ。
日本IBMが「Watson Analytics」を提供開始
Watson Analyticsは、人工知能技術「Watson」を活用した企業向けデータ分析サービスである。米IBMが2014年9月に発表した同サービスを、日本IBMが国内でも提供開始した。
Watsonは、米IBMの創設者Thomas J.Watsonにちなんで命名されたコンピュータで、人間の能力に対抗して「迅速かつ正確に自然言語での質問に答える」ことを目指して開発された。2011年にテレビのクイズ番組「Jeopardy!」で人間と対戦したことでも知られる。
Watsonと同じ自然言語処理やアルゴリズム、探索ツールを備えたWatson Analyticsは、IBMが展開しているIaaS「SoftLayer」上のクラウドサービスとして提供され、PCだけでなくスマートフォンなどのモバイル端末でも利用できる。無償版(基本機能のみ)とパーソナル版(月額4158円:税別)を用意。対応言語は当面英語のみだが、日本語も準備中とのことだ。
発表会見で説明に立った日本IBMのVivek Mahajan専務執行役員ソフトウェア事業本部長はWatson Analyticsについて、「あらゆる業務部門において、データの作成、予測分析、業務ごとの視覚的な説明など、これまで時間を要した作業を自動化することができ、働き方をも変革するものだ」と強調した。
フロントエンドからバックエンドへ攻め入るIBM
Watson Analyticsのさらに詳しい内容については関連記事を参照いただくとして、説明を聞いた筆者の頭に浮かんだのは、「IBMはWatson Analyticsを企業システムのあらゆる業務に共通したフロントエンドツールとして普及させようとしているのではないか」ということだ。会見終了後、その点をMahajan氏に聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。
会見に臨む日本IBMのVivek Mahajan専務執行役員ソフトウェア事業本部長
「その通り。自然言語による対話を通じてさまさまな分析処理が行えるWatson Analyticsは、あらゆる業務のフロントエンドツールとして活用してもらえると確信している。したがって、まずはできるだけ多くのユーザーに使ってもらいたい。基本機能を無償で提供することにしたのもそのためだ」
となると、話はフロントエンドツールとして普及させるだけでは終わらない。例えば、競合他社の製品が混在する企業システムにおいて、Watson Analyticsによってフロントエンドを統一すれば、バックエンドも全てIBM製品に置き換えることができるのではないか。IBMはそれを狙っているのではないか。Mahajan氏にそう問い詰めてみたところ、同氏はニヤリとしながら、「そう、それがWatson Analyticsに込めたIBMの戦略だ」と語った。
筆者の記憶では、IBMが企業システムにおいて、フロントエンドからバックエンドに攻め入ろうという戦略をとるのはこれが初めてだ。その意味でも、Watson AnalyticsにはIBMの大いなる野望が込められている。