モバイルの潜在性を理解できない企業--Forresterアナリスト

末岡洋子

2015-01-14 07:30

 スマートフォンとモバイルアプリが普及して数年になるが、企業の多くはいまだにモバイルの潜在性を正しく理解しておらず、活用できていない――Forresterの主席アナリストJulie Ask氏の指摘だ。

 Ask氏はさらに、出遅れは将来大きな損失になると警笛を鳴らす。ではどうすればいいのか。鍵を握るのは「モバイルモーメント」だという。Ask氏が伝授するモバイル戦略の課題、土台から運用までのアドバイスはどのようなものか。


Forresterのバイスプレジデント兼主席アナリスト、Julie Ask氏

 企業の約3分の2が自社のモバイルアプリを公開しており、モバイル向けに最適化したウェブサイトも用意している。そして、2014年スマートフォン上でおこなわれた購入金額は約400億ドル。こう聞くと、モバイル分野は順調、と言いたくなるがそうではない。Forresterのアナリスト、Ask氏は昨年11月中旬に米サンフランシスコで開催された「Open Mobile Summit 2014」で、企業のモバイル戦略の多くが根本から間違っていると厳しく採点した。

 Ask氏は、企業の多くが進めているモバイル対策の誤りとして3つを挙げる。

(1)PCのスリムダウンバージョン

 「残念なことに、62%がモバイルを単なる”新しい画面”としてとらえ、PC/ウェブ向けの体験を小さな画面で再現しようとしている」とAsk氏は言う。モバイルは1つのチャネルではあるが、このような「モバイルはPC/ウェブのスリムダウン」というアプローチは良くないという。2つの理由がある。「モバイルのインパクトを考えると、モバイルは”ビジネスを変革するもの”。だが、単に”PCのスリムダウン””新しいチャネル”というアプローチでは利用するチャンスを失う」とAsk氏。

 これは大きな機会損失とのこと。2つ目の理由は「消費者の期待は異なる」という事実だ。「モバイルに対する消費者の期待やモチベーションは、PC/ウェブを利用する時とは大きく異なる。スリムダウンとして扱うと、消費者のニーズに答えられない」とAsk氏。これも機会損失となる。

(2)目的地

 モバイル戦略をアプリかモバイルサイトを作ることと考える企業があるが、これも間違っているという。すべての顧客がアプリをダウンロードするわけではないし、モバイルサイトを訪問するわけではない。

 顧客は別のアプリにいる可能性が高く、ウェアラブルを利用しているかもしれない。「自分たちのアプリかサイトにやってくる(=目的地)と考えるのはよくない。企業が外に出てさまざまなところにいる顧客にリーチするという考え方が必要」とAsk氏。


顧客は自社のアプリ外にいることも想定して戦略を立てる必要がある

 なお、Ask氏によると89%の企業がモバイルを”目的地”として扱っているという。しかし、消費者がモバイルで8~9割をアプリに費やす一方で、利用するアプリは8~9に偏っている現象も指摘する。自分たちのアプリが8〜9の「コアアプリ」になれなかった場合、どうするのか。戦略は包括的に立てる必要がある。

(3)アプリに依存

 完璧なアプリを開発することに力を注ぐ企業が多いが、Ask氏によると「アプリは複雑すぎる」のが現状という。モバイルで簡単なことをしたいとき、アプリが必要となりダウンロード、IDとパスワードの設定、ログイン……。となると、顧客はプロセスの途中であきらめてしまっている。それよりも、「アラートやSMSなどのシンプルなインタラクションの潜在性」に目を向けるべきという。

 これは、ウェアラブルではますます重要になりそうだ。例えば、アプリをわざわざ開かなくてもアラートやバイブレーションなどの”マイクロモード”で通知することは、「シンプルだがパワフル」とAsk氏。「アプリを超えて考える必要がある」と述べる。


モバイル戦略は、モバイルモーメントの認識、デザイン、開発、分析とまわしていく、というのがAsk氏のアドバイスだ。なお、一番難しいのは開発で誰がモバイルを担当するか。疎外要因となっているケースも少なくないという

 Ask氏は次に、モバイル戦略を考えるときの視点を2つ紹介した。「ユニークなモバイル体験」「モバイルに対する顧客の期待」だ。Ask氏は例として航空会社を利用するモバイルユーザーの期待の変化を取り上げた。

 フライトを予約したユーザーがアプリを利用するとき、フライトの2週間前、2日前、2時間前と利用の目的は異なる。2週間前なら予約変更、2日前ならアップグレードや予約内容の再チェックかもしれないし、2時間前なら搭乗券の表示やゲート確認などが考えられる。さらには、2時間後ならホテルやレンタカー、2日後は……とニーズは変化する。

 このように顧客は、そのときの状況(コンテキスト)に応じてなにかをしたいと思ってモバイルにアクセスしている。これを「モバイルモーメント」とAsk氏は呼ぶ。

 「消費者は自分が必要としているものを、必要なときに、その状況の中で得たいと思っている」とAsk氏、消費者のこのような変化を「モバイルマインドへのシフト」とするが、企業は”既存サービスの縮小版”ではこのシフトに応じることができない。

 「米国だけでも50%のオンラインコンシューマーがモバイルマインドにシフトしている。これに応じるには、マーケティング、販売、製品開発などビジネスを土台から変える必要がある」と続ける。ビジネスモデルまでも考え直すべきかもしれないという。

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