企業が推進する「ビジネスのデジタル化」で最高情報責任者(CIO)はどのような役割を果たせばよいのか。ガートナー ジャパンが先頃発表した調査結果をもとに一言申し上げたい。
CIOに求められるデジタル化への「逆転の発想」
ガートナー ジャパンが先頃、世界84カ国の2810人(日本は61人)のCIOを対象に課題などを聞いた「CIOサーベイ」の調査結果を発表した。その中で筆者が注目したのは、企業が推進するビジネスのデジタル化におけるCIOの役割について取り上げた内容だ。
同調査によると、「ビジネスのデジタル化を推進する牽引役は誰が担うべきか」という質問に対し、「CIO(つまり自身)」と答えた割合が世界で47%、日本で34%といずれも最大だったものの、世界が日本を13ポイントも上回る結果となった。一方、「事業部門リーダー」と答えた割合では世界が17%、日本が28%となり、日本が世界を11ポイント上回る形となった。
発表会見に臨んだ同社リサーチ部門日本統括バイスプレジデントの山野井聡氏はこの結果に対し、「日本のCIOはデジタル化への先導を事業部門にも期待していることが分かるが、世界のCIOと比べるとデジタル化への関与にやや消極的な姿勢が見て取れる」との見解を示した。
また、その原因として「既存のシステム業務に忙殺され、デジタル化まで手が回らないというIT部門のジレンマがあるようだ。また、デジタル化を現場主導の改善活動の一環と捉える傾向が強いのかもしれない」との推察を語った。
山野井氏に続いて説明に立った同社エグゼクティブプログラム部門グループバイスプレジデント兼エグゼクティブパートナーの長谷島眞時氏は、「企業の成長に向け、CIOというポジションの重要性に立ち返ってその存在感を示すには、デジタル化は脅威である以上に絶好のチャンスである」と強調。そして「CIOがデジタル化の牽引役になるためには、旧来のシステムを前提とした思考や行動様式を疑い、“逆転の発想”をもって見直すべきだ」と提言した。
会見に臨むリサーチ部門日本統括バイスプレジデントの山野井聡氏(左)とエグゼクティブプログラム部門グループバイスプレジデント兼エグゼクティブパートナーの長谷島眞時氏
デジタル化を牽引するCIOの育成も課題に
長谷島氏はその上で、逆転の発想における3つの指針を挙げた。1つ目は「レガシーファーストからデジタルファーストへのシフト」。これは、経営戦略にIT戦略が従うという従来の発想ではなく、「まずデジタルテクノロジありき」で考え、ビジネスとして何が実現できるかを探ることだ。
2つ目は「ITの価値をビジネスの価値と捉える」。これは、ITの価値をコスト削減や効率化だけに見出すのではなく、IT自体がビジネスの収益をもたらすとの発想で取り組むことだ。3つ目は「ビジョンを核とする“談論風発”のフラット組織作り」。これは、IT部門をはじめ組織全体として、上意下達ではなく、明確なビジョンのもとに現場主導の“ワイガヤ”な組織作りを推進することだ。
CIOはIT部門を率いる“経営幹部”である。だが、従来、社内情報システムだけを扱ってきたIT部門がビジネスのデジタル化も担っていくためには、IT部門自体の変革も不可欠だ。まさしくガートナーが言う“逆転の発想”が求められるだろう。その牽引役を担うのがCIOであるという見解は、筆者も全く同感である。
さらに付け加えれば、こうした取り組みを推進する上で、最高経営責任者(CEO)がCIOを全面的に信頼し、後ろ盾になり、権限委譲をどんどん進めるべきだと考える。もう1つ、そんなCIOを企業としてどう育成していくか。これまで多く見られた“IT部門一筋”の人材では、激動するビジネスのデジタル化に対応するのは難しいだろう。企業としての人事施策にも深く関わる大きな課題である。