SAPが「Business Suite 4 SAP HANA(SAP S/4HANA)」を発表したことにより、顧客の維持だけでなく、ビジネスを一変させるアプリケーションで顧客を魅了することも目指す、同社の基本計画が一足先に明らかになった。
しかし、解決するのに数カ月(あるいは数年)を要するであろう疑問がまだいくつか残っている。本記事では、S/4HANA関連のそうした諸問題について解説する。S/4HANAは、重役会議レベルで売り込まれるだろう。最高情報責任者(CIO)も発言権を持つだろうが、SAPはまず、最高財務責任者(CFO)が最初に登場する「Simple Finance」に魅力を感じてくれることを想定している。
(S/4を使いたければ)SAPのデータベースが必要。SAPの幹部陣はS/4HANA発表イベントで、データベースの移行は大したことではない、と繰り返し述べた。SAPのエグゼクティブボードメンバーでセールス担当プレジデントのRob Enslin氏は、「データベースの移行はそれほど難しくない。それほど複雑でもない」と話した。最高技術責任者(CTO)のQuentin Clark氏も同じ趣旨の発言をしている。しかし、現実には、「Business Suite 4」の使用には「HANA」が必要だ。HANAはSAPのデータベースである。Oracleなどのデータベースを選択したBusiness Suite顧客は2025年までサポートされる。
S/4HANAの機能は非常に魅力的なので、顧客はわざわざデータベースを別の物にはしないだろう、というのがSAPの主張だ。問題なのは、Oracleの方を好む、あるいは少なくとも簡単には現行の契約を解除できない顧客もいるかもしれない、ということである。
SAPの最高経営責任者(CEO)Bill McDermott氏は、S/4HANAが現状を一変させる製品だと考える理由を次のように説明した。
われわれはHANAでBusiness Suite全体を動かしている。このBusiness SuiteはHANAでの使用を想定して最初から作り直された。この製品の名称は「S/4HANA」だ。Sは「Simple」(シンプル)を表す。4は第4世代であることを示している。HANAが何を意味するのかは、説明するまでもないだろう。HANAは前世代ではなく現世代向けの世界標準のインメモリデータプラットフォームだ。
S/4HANAはなぜそれほど重要なのか。これによって劇的なTCO削減を実現できることに加えて、S/4HANAの本質は顧客のためにビジネス価値を創出することだからだ。予測とその正確さによって事実上、市場や取引、流れが分かれることを考えてみてほしい。したがって、より正確な計画が可能になれば、業績を高めることができる。例えば、72時間早く帳簿を締めることができたら、どうなるか想像してほしい。72時間というのは適当に選んだ数字で、それより大幅に改善できる可能性もある。完全に臨機応変に新しいビジネスモデルを創造しシミュレートすることができたらどうなるだろうか。経営チームが共通のエリアに座って、リアルタイムのデータで企業のすべての事業を把握し、フィードバックループに基づいて真の決定を下す、未来の取締役会議室を構築することができたらどうなるだろうか。現状が一変するはずだ。
S/4をHANAで動かそうとしているSAPは、前例のないことをやっているわけではない。Oracleのスタックは同社のデータベース向けに最適化されている。Microsoftの「Dynamics」はSQL Serverで動作する。しかし、SAPアプリケーションを利用する大半の顧客は、それをOracle製品上で動かしている。S/4の革新的技術を利用したい顧客は、HANAを入手するしかない。それしか方法はない、とSAPは主張している。
SAPユーザーグループのDSAGは、データベースの自由を求める、と述べている。
「われわれは、SAP S/4HANAが今後、どのように発展していくのか非常に興味がある。具体的な要件に関して言えば、特にデータベースについて、SAPが顧客のために真の選択の自由をこれまで通り提供してくれることを願う。機能性やパフォーマンスに関して制約を受けることなく、SAPのHANAデータベース以外のデータベースも利用できる状態が今後も維持されるべきだ」(DSAG)