前編で、ヤフーが2014年秋、「Yahoo! JAPAN」で収集したユーザーデータの解析を基にしたサービス「Yahoo! DMP」の提供を開始したことと、その内容や利用方法について、マーケティングソリューションカンパニー エグゼクティブユニットマネージャーを務める高田徹氏に聞いた。後編では、DMPを展開するにあたっての課題にも触れる。
高田氏は、DMPの戦略は3種類に分類できると説明する。1つ目は前編で紹介した既存のITベンダーが展開しているハード(ハコ)やソフト(ライセンス)を売るビジネスモデルである。
2つ目が自社独自のプラットフォームを提供し、顧客を囲い込むモデル。米Googleの「Google Analytics」や米Facebookなどがそれにあたる。3つ目が、オープンな環境での提供だ。高田氏は、Yahoo! DMPをオープンにする背景を、以下のように説明する。
ヤフーでマーケティングソリューションカンパニー エグゼクティブユニットマネージャーを務める高田徹氏
「お客様から“Yahoo! DMPはヤフーの広告商品を利用する時しか利用できないのか”と質問されるが、DMPで 顧客を囲い込むことはしない。例えば、顧客がYahoo! DMPを使ってメールマーケティングを実施したい場合、利用するのは、ヤフー子会社であるシナジーマーケティングのサービスでも、シナジーマーケティングの競合となるトランスコスモスのサービスでも問題のない環境を提供する。短期的な利益率だけを考えれば、囲い込んだ方がいいのもしれないが、オープンにすることでトランザクションが増加し、結果的に収益はクローズドな環境よりも大きくなると考えている。われわれの目標は、日本の顧客をどこまで深掘りできるかだ」
ヤフーの検索広告利用社数は10万を超える。しかし高田氏は「日本の事業社が500万だとすると、まだ10%の企業しか使ってもらっていない。われわれのKPI(重要業績評価指標)は、日本企業をどのくらいカバーしているかだ。どんな規模の企業でも、少ない初期投資でスタートできるのが強みで」と力説する。
政府も決めかねているプライバシーとパーソナルデータ活用のジレンマ
Yahoo! JAPANの月間PVは600億以上。日本においてはポータルサイトの代名詞ともなっている。DMPを活用したマーケティングは、詳細なユーザーターゲティングが可能になる反面、プライバシーへの配慮も求められる。「自分の行動履歴を把握されている」ことに居心地の悪さを感じているユーザーは少なくない。
こうした反応に対し高田氏は、「ヤフーがプライバシーポリシーに沿って収集しているビッグデータは、 Yahoo! JAPANでの検索履歴や、ページ閲覧履歴などだ。cookieは個人を特定するものではなく、コンテクストを特定するために利用している」と説明する。
cookieは本来、サイトへのログインの手間を省いたり、繰り返し訪問するユーザーに対して最適な情報を提供したりという、利便性を確保するための技術である。
高田氏は「インターネットを便利にするための技術でも、利用者に不安を与えてはいけない。ターゲティングに不安を感じるユーザーに対しては、(ターゲティング広告の)サービスを止めるよう意思表示をできる環境を提供するこが重要だ」と語る。
その一例となるのが、インターネット広告推進協議会(JIAA)の「JIAAインフォメーションアイコンプログラム」である。これは、「行動ターゲティング広告」に共通のアイコンを設置して、情報の取り扱いやオプトアウトの手段をユーザーに知らせるものである。
JIAAにはインターネット広告、モバイル広告ビジネスにかかわる企業(媒体社、メディアレップ、広告会社など)が加盟しており、ガイドライン策定、調査研究、普及啓発など、インターネット広告市場の発展と社会的信頼の向上を目指す。その中でヤフーは、中核的な役割を担っている。
「JIAAインフォメーションアイコンプログラム」のアイコン