中国人女性は自分を美しく撮ろうとするのが大好きだ。自分撮りに関するヒット商品として、「自拍神器」ことカシオ計算機のマルチアングルなカメラ「EX-TR」シリーズや、中国産の美顔化フォトレタッチに特化した、パソコンやスマートフォン用のソフト(アプリ)の「美図秀秀」などが挙げられる。
「EX-TR」シリーズとしては先日、美顔機能を強め、外観をより女性向けにした5代目の製品「EX-TR500」が発売された。「美図秀秀」はダウンロード数は2014年10月時点で6億4000万件と、2位以下の「相机360(ダウンロード数2億超)」「美顔相机(ダウンロード数約1億8000万)」「百度魔図(ダウンロード数1億超)」を引き離し、パソコン時代から支持されたブランド力で美顔アプリの中で際だつ存在となっている。また美図秀秀は、自分撮りスマホ「美図手机」をリリースしたほか、同社を追うように自分撮り機能を特徴としたスマホが中小メーカーからリリースされている。一部の家電量販店では、「自拍神器」を自称する、自分撮り製品が選べる状態となっている。
一方で最近アジア圏でブレイクしたセルフィースティックは「自拍杆」ないしは「自拍棒」と呼ばれる。中国ではオンラインショッピングサイトで売ってはいるものの、使っている人をほとんど見たことがない。リアルショップでも見たことがほとんどない。今後リアルショップでどこでも見るようになり、購入者が増えれば、利用者が利用者を呼んで指数的に普及していくという可能性はある。だが、そもそも中国では以前からSNSなどで自分のアイコンを自分撮り写真にする人は多く、ぎゅっと顔を寄せ合ったカップルや親子仲良し写真も多いものの、セルフィースティックを使うようなグループの集合写真はそれほど撮らない。そのためセルフィースティックにはニーズがないようにも思う。
多くの女性がチャットアプリ「微信(WeChat)」やマイクロブログ「微博(Weibo)」で情報のやりとりや発信をする。中国のSNSなどのネット上では、自身の写真をアイコンとする人もいて、自身の顔出しを気にしない人が多いようだ。2014年末には「美図秀秀」や「美図手机」をリリースする「美図」から、「第一届自拍世錦賽」なる自撮り大会があり、多くの人が自分撮り写真をアップし、中国のSNS界隈では話題になった。
さてiResearchは、フォトレタッチアプリ2位の「美顔相机」と提携して、中国女性の自分撮りについての研究報告を発表した。それによると、よく自分撮りをする人の実態像は、比較的所得の高い「平均収入10万円超(5124元)」、81.8%が「1985年以降生まれ」、68.3%が「大卒以上」という傾向があるという。地域差もあり、広州、深セン、南京の3都市の女性が、「1日に3度以上自分撮りをする」という。顔を出すだけにとどまらず、コスプレ姿を撮る人や、自身の裸体を撮る人もいる。
撮るポーズでは「ピースサイン」「日を手でかざすポーズ」「笑顔」「考える顔」「斜め45度」「正面」などが人気だ。中国人の撮影は特徴的だが、自分撮りにも傾向があるようだ。
自分撮りをする人の約3分の2にあたる66.3%が「恋人がいる」(33.7%が「恋人募集中」)であり、過去の恋愛歴が少ないほど自分撮りをする人が多い傾向がでた。48.8%が「自分撮りで自分に自信がもてる」といい、87.4%が「自分撮りに満足」だという。また自分自身の顔を10点満点で評価すると、「7点(30.3%)」「8点(29.3%)」「9点(9.6%)」「10点(2.5%)」となり、7点、8点で全体の6割、9点も含めれば7割となった。
ともすれば期待できるのが、平均月収10万円という自分好きな女性の購入行動についてだ。あくまで個人収入なので、相応の伴侶がいれば、カップルの月収は20万円以上となる。
自分磨きにかけるお金は1カ月あたり平均約56000円(2800元)。その内訳として服装に15000円超(757元)、化粧品に12000円超(613元)、マッサージやスパに約11500円(578元)、アクセサリーに約9000円(454元)、ヘアカットに8000円超(403元)を費やしているという。自分撮りをする女性の75.3%がスマートフォンでショッピングするという。なるほど、カシオの「自拍神器」はなかなかの高さだが、この日常の支出を見るに、買えてしまう女子が多いのも納得だ。
自分撮りをする人に、無料のスマホアプリでアプローチし、何らかの形で、スマホから女性向け商品に誘導する。そんなアプローチもいいのではないだろうか。
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。