山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

やはり中国人観光客はAirbnbを使わない--都心のマンションへの出入り増えるも

山谷剛史

2015-09-29 06:00

 最近、日本のニュース番組などで、「爆買いニーズで中国人観光客が日本にやってくるが、ホテルではなく都心のマンションに出入りしている」と報じられている。こう聞いて思いつく宿泊サービスと言えばAirbnbだが、中国でAirbnbが使われている印象も、認知されている印象もない。認知されているといえば上海くらいだろうか。

 中国で民家を宿とする行為自身は珍しくない。交通が不便で貧しかった頃から、近場の農家に泊まる「農家楽」というものがある。近年ではマンションの一室のそのまた各部屋を旅行客に貸し出す人も増えてきた。マンションの2階以上の壁面に、旅行客向けの部屋貸しの広告が看板やLEDライトで掲げられているのも、見慣れた光景だ。

 中国でAirbnbが使われないのは、これが浸透前の最先端サービスだから、ではない。前回の記事でも書いたが、中国では「O2O(Online to Offline)」という単語が旬である。そこで出てくるのは、GoogleでもYouTubeでもFacebookでもAmazonでも言われていた「水土不服」という言葉。外国のサービスは中国人にしっくりこない、肌に合わない、だから中国の模倣サービスを使うというわけだ。

 Airbnbがリリースされたのは2008年。その3年後となる2011年に、アメリカ帰りの中国人が、Airbnbをそのまま真似た「愛日租」というサービスを立ち上げた。2012年末には80都市をカバーし、総部屋数は8万を超えたが、資金力不足で2013年に閉鎖。Airbnbをそのまま真似ただけのサービスは、中国人が作ってもしっくりこなかった。

 生き残ったのは、その後に出てきた、「途家網」「住百家」「木鳥短租網」「小猪短租」「〓蟻(〓は虫へんに馬)」というサイトだ。「木鳥短租網」「小猪短租」「〓蟻(〓は虫へんに馬)」はAirbnbを中国風にして、サービス提供範囲を中国国内に限定にした程度のサービス。前述の、閉鎖した「愛日租」を含め、個人対個人(Customer to Customer)のサービスであり、海外版を模倣(Copy to China)したものであることの両方の意味で「C2C」である。C2Cといえば、EC市場では淘宝網(Taobao)が代名詞的なサービスだが、中国人同士でも見知らぬ者同士は信用できない環境であることから、この分野でも信用を売りとしてB2Cのサービスを展開する天猫や京東にシェアを食われている。C2Cの部屋貸しサービスについても、信用問題や接客のトレーニングや部屋の品質チェックをしていないことを懸念するメディアも少なくない。

 一方「途家網」「住百家」はAirbnbをベースに変わった発展をしていて興味深い。いずれも「水土不服」にならないように、中国人が客であり、貸主でもある。

 まず「Airbnb」の対抗馬であり、日本でも無視できない存在が「住百家」だ。住百家は海外旅行をする中国人観光客向けのサービスで、貸主も基本中国人である。サイトに登録された部屋は、東京をはじめ、日本にも多数ある。これらの宿(家)の情報はAirbnbでは見つからない。住百家の家は、サイト掲載前に、オンラインとオフラインで審査を受けており、一定のクオリティが保証されている。この住百家のシステムを中国ITを知る人には「中国国外向け中国人宿で天猫的システム」と説明している(天猫は信頼と価格を両立した認証制B2Cオンラインショップ)。

 もう1つの「途家網」というサイトも面白い。こちらは、中国各都市の都心のマンション物件ではなく、郊外の「別墅」と呼ばれる一戸建ての別荘などを中心に扱っている。物件主が個々で登録するのではなく、不動産会社と提携することから、「中国人向け郊外物件中心の京東的システム」、換言すると「Amazon的システム」といえる。

 これらのサイトで中国国内外の宿泊物件を見てみると、安くはないが広くて、家族旅行で使って落ち着ける、という物件が多い。ホテルではどうしてもダブルルームやツインルームどまりの部屋ばかりが供給されがちだが、一方中国では100㎡以上の部屋は当たり前にある中で、こうした部屋を家族旅行で拠点にできれば、家族旅行客が満足できるわけだ。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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