大木豊成「Apple法人ユースの取説」

プライベートの隙間に仕事をするという発想の転換--法人端末を個人利用する効果

大木豊成 2015年11月06日 07時00分

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 BYOD――。ご存知の人が多いかと思うが、Bring Your Own Deviceの略で、従業員が個人の端末(現在ではスマートフォンを指すことが多い)を職場に持ち込んで業務に活用することを意味する。

 しかし、日本ではなぜかそれらをコストダウンの手法と考えている企業が少なくないようだ。そもそもBYODの語源は、海外のレストランなどで言うBYO、お客が各自で好きなお酒を持ち込んで飲むことが出来る仕組みから来ている。つまり、自分の好きな端末を職場に持ち込むことを意味しているのだが、日本ではそう捉えていない人が多い。


 それには理由がある。BYODという言葉が流行り始めた頃、大手のシステム開発会社や通信会社が、こぞって「コスト削減」と謳っていたからだ。試しに、検索エンジンで「BYOD コスト削減」と検索してみると、それらを提唱していた企業のサイトに行き着く。BYODは、必要な経費をケチることの代名詞ではないはずなのだが。

 コスト削減がBYODの本質ではない。従業員が自分の好きな端末、自分が使い慣れた端末を社内に持ち込むことが本来の目的なのだが、残念ながら日本ではさほど普及していないのが実情だ。

業務端末を私的に利用させてもいいじゃないか

 最近余り聞かれなくなったBYODという言葉の対極で、COPEという言葉が登場してきている。なんでも英語の略で恐縮だが、COPEはCorporate Owned, Personally Enabledの意味で、企業が業務用に貸与した端末を、社員が私的に利用することを認めてもいい、という考え方だ。著者は以前、自分なりの造語で「BYCD(Bring Your Corporate Device)」という造語で説明していたが、意味は同じだ。

 その昔、会社で貸与した携帯電話は、1通話あたりで今と比べるととても高額な通話料がかかっていたが、現在はかなり安くなっており、家族に電話をかけるくらいなら普段から利用しても大きな問題にはならないのではないだろうか。

 また、その他のツール、例えばFacebookやTwitter、LINEといったものを使ったところで、会社にとって大したコスト負担にはならない。むしろ、個人利用は個人端末で、会社のことは業務端末で、と使い分けているほうが煩雑だし、社員も最低2台のスマートフォンを持ち歩かなくてはならない。だったら、会社支給の端末を個人利用することを認め、その代わり会社の端末なので会社のルールやセキュリティ基準に見合った設定を課すという運用が望ましい。BYODでは社員の承諾を得ることが難しい設定でも、会社支給ならルールで線引きすることが容易になる。

個人も法人利用に興味を持つ時代

 著者はPodcastを聴くのが趣味で、通勤時に聴いている。Podcastとは、簡単に言うとインターネットラジオのことだ。その番組の多くは個人聴取者向けに公開されているのだが、最近では法人利用についての話が出る機会が増えてきた。


 例えば、Podcast番組「Apple News Radioワンボタンの声」は、MacやiPhoneといったApple製品の個人ユーザー向けに情報を発信しているものだが、「Adobe MAX」など業務利用のイベントなどを取り上げることも多くなってきた。

 また、テクノロジやガジェットのニュースを取り上げる番組「backspace.fm」では先日、IBMがMac導入後にヘルプデスクの負荷が減った話を取り上げ、会社員がMacを使うことについて話し合っていた。

 われわれの身近でも、Macを個人利用しかしていなかった人たちが、気が付くと社内でMacBook Airを抱えて歩いていたりする時代になっているのだ。Macを業務利用する企業が増えている今、個人が法人利用に興味を持つのは当然になっている。そして、むしろ個人と法人の垣根がなくなっていくのが自然な流れではないだろうか。

 Apple製品のユーザーが集まる「AUGM」というイベントがある。東京、大阪だけでなく、東北地域、九州・沖縄でも開催されるApple製品ユーザーの自主的なイベントだ(アップルジャパンは関わっていない)。AUGMも個人ユーザー向けのイベントなのだが、最近ではその中で法人向けサービスが紹介されることが増えてきた。2015年のAUGM東京では、クラウドバックアップソリューションの「アクロニス」や、アドビの「Creative Cloud」も紹介されていた。

 Macを個人利用するだけであれば、Macが標準で備えている「Time Machine」の機能を使ってバックアップ、あるいは復元すればいい。しかし、法人利用で複数のMacを管理することを考えると、個別にバックアップが必要になるTime Machineよりも、アクロニスのクラウドバックアップソリューションという選択になるのかもしれない。

 アドビのCreative Cloudは、PhotoshopやIllustratorなど従来独立していたアプリケーションをInDesign、Adobe Premiere Proなどとまとめ、モバイルでも使えるようにして提供するクラウドソリューション群と捉えればわかりやすい。クリエイターやデザイナーが使うことが多いが、アプリケーションを複数ユーザーで使えるようにしたプランも用意されており、AUGM参加者からも注目されていた。

個人が個人の垣根を超えるとき、法人利用が一気に使いやすくなる


 今では誰でも利用している“ブログ”というものは、2002年頃から少しずつブームが始まった。筆者は2004年から有志で社内ブログや社内SNSの勉強会を開いていた。一時期は100人ほどの参加者があったのだが、参加する企業内での反響は芳しくなかった。当時は、ブログは個人で書くもの、社内で書くのは業務日報や営業日報というものでそこには大きな隔たりがある、というのが一般的な認識だったからだ。

 その頃のことを今から振り返ると、ツールの問題もあったのだと実感する。ブログは自宅のPCにインストールするか無料ブログサービスを使う人が多かった。一方で、社内システムにアクセスできるのは社内PCのみ。この状況で、社内ブログを理解しましょう、ということには無理があったのかもしれない。

 もちろん、一部の企業では上手な旗振り役がいて、便利に活用していたところもあるが、多くの企業では導入したものの頓挫してしまった。

 2015年の今日になり、会社員も経営者も使うツールが格段に増えた。社外に持ち出せるノートPCを使う人が増え、スマートフォン、タブレットを業務に使う人も格段に多くなった。これらのデバイスが一般的になったことで、社内のツール活用のハードルが大きく下がったと考えられる。

 今までは、社内のファイルにアクセスするためにわざわざ帰社していた人たちが、スマートデバイスに見合ったクラウドサービスを使う、あるいは社外からセキュアにアクセスできる仕組みが用意されることで、時間を効率よく使えるようになった。仕事の隙間にプライベートを楽しむのではなく、プライベートの隙間に仕事をすることも可能になっているのだ。

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