IBMのコグニティブコンピューティング製品「Watson」は2011年にテレビのクイズ番組「Jeopardy!」で優勝したことで有名だが、その後同社はビジネス界でのWatsonの注目度を上げるべく努力してきた。
Watsonの事業は、クイズ番組への出演以降の3年間で1億ドルしか売上を上げられなかったと言われているが、その後同社は、この技術で大きな賭けをすることを決めた。2014年1月、IBMは10億ドルを投資してWatson事業グループを設立した。その狙いは、この自然言語学習システムを製薬、小売、銀行、メディア、教育の各業界向けクラウドアナリティクスサービスのエンジンとして使うことだ。
2015年4月、IBMはWatsonの技術を用いた初めての特定業界向け事業部門である「Watson Health」を立ち上げ、取り組みをさらに加速させた。同社が最初のターゲットに医療市場を選んだことに不思議はない。Watsonの最初のパイロットプロジェクトのうち2つは、腫瘍を専門とする病院である米国のメモリアルスローンケタリングがんセンターと、健康保険会社WellPointに関わるものだった。
IBMのWatson Healthグループでイノベーション担当バイスプレジデント兼最高科学責任者(CSO)を務めるShahram Ebadollahi博士によれば、この部門を設立した理由の一部は、医療情報の質が変化していることにあるという。
「医療に関する情報は増え続けており、その管理と、そこからいかに意味を引き出すかが問題になりつつある段階に来ている。人の健康と快適な暮らしに影響を与える要因のことを健康の決定要因と呼ぶが、その10%は患者と医者との間のやりとりの中で得られる臨床データ、30%は遺伝子関連の情報であり、60%は外因性データと呼ばれる、通常の医療環境の外部で人に起こっている事柄だ」と同氏は述べている。「これは、行動的、社会的、環境的および非正規の臨床データを指す」(同氏)
外因性データが増加している背景にあるのは、ネットワークに接続された健康に関わりのあるハードウェアの増加だ。「Fitbit」などのフィットネスバンドで収集される情報はもとより、Appleの「HealthKit」や「Google Fit」、サムスンの「S Health」などのスマートフォンを使用したプラットフォームもあれば、インシュリンポンプ、ペースメーカー、血圧計などの、ユーザーのデータを記録できる医療機器も増えている。
「活動や栄養、その他のデータなど、取得は可能だが、医者の診療ではつかめない情報には、さまざまな重要な意味がある。例えば、糖尿病患者を例に取ってみよう。多くの場合、糖尿病の患者は90日に1度程度の頻度で医者に行くが、その間に起こったことが、その後の病状に大きな影響を与える。このようなデータは、特に慢性的な症状を管理する際に重要になりつつある」とEbadollahi氏は言う。
IBMは医療業界での「Watson」の注目度を上げている。
提供:IBM