北川裕康「データアナリティクスの勘所」

“技術”を語れるIT屋になるための勉強法

北川裕康 2015年12月27日 07時30分

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 少し前に映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』を観ました。今日のコンピュータの基礎を作ったアラン・チューリングさんの話です。第二次世界大戦のときに、ドイツ軍の複雑な暗号を心血注いで開発したマシンで解いて、英国を勝利に導いたというストーリです。なかなか面白い映画でした。

 チューリングさんの開発したマシンを可能な範囲で実現・具体化したものが「ノイマン型コンピュータ」であり、現在のコンピュータの大半はノイマン型コンピュータと言われています。最初のノイマン型コンピュータは1949年に開発された「EDVAC(エドバック)」ですが、実はEDVACが登場した時代から、基本のコンピュータのアーキテクチャは大きく変わっていないのです(もちろん、ハードウェアは速く、小さく、大容量にはなっており、ソフトウェアは日々進化しています)。

ITを知らないことの何が問題か


 さて、皆さんが生まれたときからコンピュータの仕組みは大きく進化していないにも関わらず、ITベンダーで製品を売ったりIT部門で企業システムを導入したりする仕事に就いている人たちの中にも、いまだにITの技術の話に苦手意識をもっている人は多いのではないでしょうか。

 多くのITベンダーのマーケティング部門をみると、ある意味、社内の広告代理店化している気がします。イベント、テレマーケティング、デジタルマーケティングと、チャネルという手段を中心に仕事をしています。それはとても大事なことですが、自社製品を提供するベンダーにいる限り、売るべき製品を正しく理解して、どのような顧客に、どのような差別化されたメッセージを出せるかを考えてマーケティングを実行しない限り、他の部門に広告代理店と何が違うのかと言われかねません。

 ユーザー企業のIT部門でも、製品技術をよく理解しないままにシステム導入を進めてしまっているケースがあります。その結果、ITで競合を出し抜くというより、“当たり前IT”になってしまってはいないでしょうか。システムを提案するITベンダーが技術を理解して価値提案できていないというのも問題ですが、導入を検討するIT部門に自社の競争優位につながるITの可能性を追求するだけの知識がないのも残念なことです。

新しい技術に当たりをつける


 ITを理解し、技術を語れることは仕事上の大きな強みになります。少し、ITマーケターとしての私自身の経験をお伝えします。

 私は、大学ではIBM 360互換機でコンピュータ(当時は計算機と呼んでいましたが)を学び、在学中に「第一種情報処理技術者試験」を取得するために勉強してコンピュータやネットワークの基礎を学習しました(もう言葉すらなくなったフロッピディスクは、当時フレキシブルディスクと呼んでいました。時代を感じますね)。社会人になってからはUNIXに触れ、さまざまなミドルウェアやネットワークのビジネスに関わりました。

 その結果、ITに新しい技術が登場しても、「これはあの技術とあの技術の応用なのだろうな」と当たりをつけることができるようになりました。ノイマン型コンピュータからの進化はあっても、革新というのはそれほどないからです。もうすでに技術者ではないので詳細までは理解はしませんが、IT業界にいる限り、この“当たりがつけられる”のは大事なスキルだと思う今日この頃です。

 例えば、TCP/IPで必ず学ぶ通信技術であるSocket通信を理解していたため、「リモートプロシジャーコール(RPC)」という技術が登場したとき、「これはきっとSocket通信を基盤に、新しい技術である分散処理における名前解決が合体して、ローカルの関数を呼び出すプロシジャーコールのように、リモートの関数が呼び出される技術なのだろう」と想像がつきました。また、「XML Webサービス」が出てきたときは、「RPCがベースで、ウェブアプリから呼び出し可能なようにして、その引数で使われるデータがXMLで表現されるのだろう」と想像できました。

 最近流行りのOpenStackも、「OS、ネットワーク、ストレージが、薄いエミュレーションのレイヤをもつ仮想OS、仮想ネットワーク、仮想ストレージとして進化したもののさらに応用」ととらえることができます。

 ざっくりの理解でいいので、新しく登場した技術に当たりをつけて語ることができる――。このスキルのおかげで、私は、ITベンダーの中で開発者と対等に話せるマーケターとして、それなりの存在感を持って仕事をしてきました。また、技術がわかるからこそ、正確なメッセージで自社製品を訴求してこられたのだと自負しています。

本質を理解すればITは怖くない


 ITは日々進化して、その技術にキャッチアップしていくのは大変な苦労だと思われますが、ITの本質を理解する、要するに基礎的なことをきちっと押さえておけば、全く新しい量子コンピュータのようなテクノロジが登場しない限り、既存の知識への追加で世の中のトレンドに対応できます。最初の坂は急で少ししんどくても上ってしまえばなだらかな坂になるわけです。

 基礎的なこととは、(1)コンピュータの構造、(2)OS、(3)ネットワーク、(4)データベースファイル管理システム--あたりです。仮想化で話題になっている技術に近いかもしれません。例えば、Microsoftのディレクトリサービス「Active Directory(AD)」を語ろうとしたとします。ADは、Exchange Serverのデータベースが基盤になり、各種の情報を管理し、かつ、ネットワークで認証サービスを提供しているものですから、データベースとネットワークの基礎知識があれば、十分理解して話すことができるわけです。

 コンピュータのアーキテクチャを理解するためには、一度自分でPCを組み立ててみるのもいいかもしれません。OS、ネットワークは、ほとんどのIT製品に関係するテクノロジですから、まずは自社で扱う製品や導入する製品を徹底的に勉強すればいいと思います。自社製品の理解を通して、その製品が実装している技術の理解が可能です。

 余談ですが、この勉強法では習得できないのが「アナリティクス」で、製品や技術の知識に加えて、サイエンスの勉強が必要になるので厄介です。データサイエンティストがセクシーな職業と言われる所以ですね。

基礎研究に投資するIT企業からトレンドを読む

 基礎技術の勉強に加えて、技術トレンドにアンテナを張ることも忘れないでください。これは、昔はもっと楽でした。なぜならIBMの技術動向を見ていればトレンドが読めたからです。ネットワーク、仮想化、RDBMSなどなど、これらの技術はIBMが基礎研究で開発したものが、汎用的になって爆発的に普及したものだと理解しています。トレンドセッターは明らかにIBMで、IBM技術のコモディティ化が普及です。

 現在は、Hadoopに見られるように、GoogleなどIBM以外のIT企業が作った技術が主流になりつつあります。ただ、それでも基礎研究に投資できる企業の数は限定されているので、そのような企業の技術を常にウォッチしておくことが重要です。IT市場でよい仕事をするために、ITの技術とトレンドを語れるIT屋を目指してください。

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