北川裕康「データアナリティクスの勘所」

理解してない製品をデモしてはいけません--対談:Increments及川氏とSAS北川氏 (前編)

吉田 洋平 羽野三千世 (編集部) 2016年02月23日 07時00分

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 SAS Institute Japanの執行役員である北川裕康氏とIncrementsのプロダクトマネージャである及川卓也氏。2人には日本DECとマイクロソフトに同時期に在籍した過去があり、共に長期に渡ってIT業界に関わってきた。今回は北川氏の発案で「ITエンジニアに元気になってもらう」ことをテーマに2人の対談が実現した。

 北川氏は現在SASでマーケティングと経営企画を担当している。近年はマーケティングを主に担当してきたが、キャリアのスタートはエンジニアだった。大学時代に富士通のコンピュータを使っていたことなどがきっかけで卒業後は富士通に入社。UNIX上でのアプリケーション開発を担当した。その後転職した日本DECでもエンジニアとして従事。マイクロソフトに転職した後はマーケティングを担当し、シスコシステムズを経て、SASに入社した。

 一方の及川氏がプログラミングに出会ったのは大学時代だった。早稲田大学理工学部で探査工学を研究している時にコンピュータと出会い、独学でプログラムを学び始めた。コンピュータや科学技術計算の知識を生かせる就職先を求めて日本DECに入社し、プリセールスやソフトウェア開発を担当。その後マイクロソフトでWindows製品の開発、グーグルでブラウザの開発に関わり、2015年秋にIncrementsに入社した。(文中敬称略)


及川卓也氏(左)と北川裕康氏(右)

北川:私たちはマイクロソフトに同時期に在籍していて、リーダーシップトレーニングを一緒に受けましたよね。Windows 2000 Serverのローンチも一緒にやりましたね。「ぱぴぷぺぽはひふへほばびぶべぼ事件」があったりして凄く記憶に残っています。

及川: ありましたね(笑)。Windows 2000 ServerはActive Directoryを実装した最初の製品だったのですが、そのActive Directoryに濁点と半濁点を区別できないって問題が出荷のわずか1カ月か2カ月前に見つかったんです。「はは」と「ぱぱ」と「ばば」が区別できない。それを直そうとしてもうまくいかなくて。ただ、部署の名前とかに使う場合はこのままでも影響はないことが分かったので、最終的にそのまま発売することになった。そうしたら、「そんな不完全なものを出すのか」とメディアに凄く叩かれた。今でも責任を感じています。

北川:では、本題に入りましょうか(笑)。私もITエンジニアをしていた時期があります。今はキャリアを変更しましたが、そのバックグラウンドが生きています。及川さんはITエンジニアこだわってずっと仕事を続けていらっしゃいますよね。

及川:開発にはずっとこだわってますね。ただ本当にプログラムを書く人からすると、今の「プロダクトマネージャー」という肩書きが、エンジニアと呼べるかというのは難しいところですけど。狭義にエンジニアを考えている人だと「エンジニアリングマネージャー」ですらエンジ二アと呼べないと言いますからね。でも開発にはずっとこだわっています。

日本のITエンジニアの地位を上げたい


北川:開発にこだわる理由は何ですか。

及川:50歳過ぎても開発にこだわってる人が必要だと思ってるんです。プログラミングをやってる若いエンジニアのキャリアパスを考えたときに、ロールモデルというか、「こういう道もあるんだな」っていうのを見せてあげたいという気持ちがあって。

 個人的なキャリアの観点だと、私はプレゼンが結構得意で、自分で言うのもなんですが「口がうまい」ほうだと思います。だからマーケティング的なイベントで話す立場やエバンジェリストもできるとは思うんですが、でも、そういうことができる人はマイクロソフトの中などに相当数いる。だから、敢えて違うことがやりたいという気持ちもあります。50代で小さなスタートアップに開発で入る奇特な人がいてもいいかなと。

北川:FinTechなどITのテクノロジが基盤のビジネスが注目されている一方で、大学の偏差値みると理工は相対的に低いような状況です。そういう中でITエンジニアがどういうキャリアを積んでいくべきかは考えなくてはいけない問題ですよね。

及川:FintechなんかはITの文脈で注目されてますけど、Fintech企業は純粋なITの会社じゃないと思います。ITを使って事業をしているという企業をIT企業と呼ぶのなら、どの会社もIT企業であるべきだし。ITは本来、文房具みたいに使うべきものなので。

 この前、母校の早稲田大学で講義したんですが、日本は昔IT立国だったんです。1980年代後半の日本のITは強かった。スーパーコンピュータでも競争力があったし、ITの輸出額が大きかった。そういう時期は日本の経済自体が強かったし、現状でもITが強い国は経済が強い。ITの強さと経済的な強さは関連があるんです。

 いま日本には、ITエンジニアをリスペクトする文化がありません。誰でもできる仕事だと思われています。その認識を変えない限り、理工学部で学ぶ人が減っていくのは当然です。ある調査では企業が社員に望む能力はプロジェクト管理や全体を見る能力で、ソフトウェア工学は最も低い順位でした。

 世界では、GoogleやAmazonといった企業でエンジニアが世の中を変えていて、その人たちは高給取りです。日本も当然そうならなくてはいけない。

北川:それはすごく不思議ですよね。製造業では製造の現場を大事にするのに、ITになると開発の現場を大切にしていない。マイクロソフトのC#を開発したAnders Hejlsbergが「今でも、本質を理解するためにプログラミングする」と言っていました。

及川:会社のイベントで話すときに、自分で理解してないものを語るのはサギだと思いますよ。デモのアプリケーションをビルドするだけでもいいんです。そういう部分で違いが出ると思う。

 プログラミングは面白いし役に立つから、沢山の人がやるべきだと思います。プログラミングは文章を書くのに似ているけど、一方で融通がきかないという特徴があります。ハイコンテクストで抽象度が高い文章と異なり、プログラミングは凄くローコンテクストなので、プログラミングできるように物事を落とし込むには論理的な思考が必要です。だからプログラミングをやれば論理的思考が鍛えられます。

グーグルのエンジニアリング部署はみんなプログラミングができた


北川:及川さんがいままで務めてきた企業では、プログラミングができる人が多かったのですか。

及川:グーグルのエンジニアリング部署所属の人間はみんなできました。プログラミングができないと仕事は無理、という感じ。マイクロソフトは必ずしもそんなことはなかったですけど、技術的にこだわりが強い人は多かったですね。エンジニアからプログラムマネージャーになった人も多かったですし。

北川:及川さんのグーグルと今のポジションは「プロダクトマネージャー」ですけど、日本企業ではあまり馴染みのない職種ですよね。どのような仕事ですか?

及川:グーグルでは「(プロダクトマネージャーは)担当する機能に関連するものについて、CEOのように振る舞いなさい」と言われていました。マーケティングをどうしようとかいうことも含めて、組織横断的な取り組みも全て担当します。接着剤みたいな、全てを結びつける役割です。雑用係みたいなところもあります。どの部署でもやらないことを自分でカバーしたり。

 映画製作に例えると分かりやすいですね。映画を作るとき、一番偉いのは監督かもしれないし、俳優かもしれないし、脚本家かもしれない。でもプロデューサーがいないと映画ができないんです。3時間で製作が進んでいても、マーケティング的な問題で2時間でないとヒットが期待できないとなったら、それを監督に伝えて進め方を変えてもらう。お金を集める、集客する、といったこともプロデューサーの仕事です。陰の立場だけど、いないと映画ができない。映画のプロデューサーと、ソフトウェア開発のプロダクトマネージャは似ています。

会社以外の場所でアウトプットをすれば成長できる

北川:及川さんは、コミュニティ活動にも開発と同様にこだわりを持っているように感じます。

及川:どんなに大きい、人の沢山いる会社であっても多様性って時間とともに失われると思うんです。だから、いろんな組織や集団に自分を置いてみるのが大事だと考えています。いろんな形で社会の刺激を受けていたい。コミュニティそのものにもいろいろ思い入れがあります。グーグルのブラウザなんかで言うと、コミュニティが大きくなるのと技術が輝いてくるタイミングには相関があると感じました。

北川:コミュニティに参加する人には、どのようなメリットがありますか。

及川:何らかをアウトプットすることによって人は初めて成長できると思うんです。自分が話したことが間違っていたらボコボコにされるかもしれない。そういう緊張感や、いろいろなフィードバックを受けることが成長の機会になります。(後編に続く)

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