北川裕康「データアナリティクスの勘所」

ビジネス力の高いIT屋を育成する2つのヒント

北川裕康 2016年02月18日 07時00分

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 最近、FinTech(Finance + Technologies)やEdTech(Education + Technologies)など“なんとかTech”という言葉が流行っています(AdTechという先鞭をつけたマーケティングのイベントもありますね)。ITが、業務の効率化やコスト削減だけではなく、ビジネスや社会の基盤になってきていると言えます。IT屋としてうれしい限りです。


 FinTechに関するある記事で、「(FinTechを実現するには)金融屋にITを教えるより、IT屋に金融を教えたほうが早い」という意見を読みました。IT技術者からマーケティングやビジネスオペレーションにキャリアを変えたキャリアを持つ身として、とても共感します。金融もITも、どちらもそれほど簡単ではないですが、確かに、ビジネスセンスをもつIT技術者のほうが、ITが分からない金融専門家より有望かもしれません。

 IT屋がビジネスセンスを身に着けることは、長年業界の課題でした。企業のIT部門は、他部門から「ビジネスの現場が分かっていないし、SaaSがビジネス部門で導入されたとき、どのような付加価値を提供するのか?」と言われています。また、ITベンダーは「顧客企業に対して、どのようなビジネス価値を上げる提案をするのか?」といつも問われてきました。

ビジネス力の習得は、個人の努力よりも環境

 では、このようなビジネスセンスを身に着けるにはどうしたらよいのでしょうか。これは、個人の努力以上に、企業が用意する環境が必要だと考えます。個人で努力してMBAを取ったものの、その知識を発揮する環境がなく、人のネットワーク以外は宝の持ち腐れになっている人が散見されます。環境における経験が大事です。今回は、IT技術者がビジネスセンスを身に着けるための環境を作るヒントを、2つ提示したいと思います。

 私の所属するSAS Instituteは今年で創立40周年を迎えます。SASの中には、勤続20年、30年といった、米国の企業としては長く勤務をする人が多くいます。しかも、その人たちはビジネスセンスとITスキルを併せ持つ市場価値のある人材です。私は、そのような人に出会うと必ず「なぜ、飽きずに、長年同じ企業で勤めることができるのか」と質問します。返ってくる答えはほとんど同じで、「(SASの中で)仕事を変わるから」だそうです。


 能力のある人が仕事をローテーションすることには、2つのメリットがあります。1つ目は、その人が新しい経験や知識を身につけ、過去のものと融合することで、イノベーションを起こせるということ。イノベーションの大半は、既にある技術やアイデアの組み合わせだといわれています。例えば、私の上司のマーケティング責任者は、もともとアナリティクスの関わるような人で、アナリティクスをマーケティング業務に持ち込んで、マーケティングのやり方の近代化を図っています。もう1つのメリットは、人が動くことで、人と人の強固なネットワークができ、コラボレーションが促進されるということです。

 ジョブローテーションは、日本企業が従来から経営幹部候補生のキャリア形成のために行ってきた手法です。この手法をIT技術者にも適用して、意図的に修業させればよいのです。

IT部門と経営企画部門を融合させる

 2つ目のヒントとして、私自身の今の仕事を紹介します。現在、SAS Japanにおける私の役割は、マーケティングとビジネスオペレーションの2つです。後者のビジネスオペレーションは、ビジネス戦略の策定、ビジネスプランの作成から、日々のオペレーションでPDCAをまわす仕事です。


 2つの役割を同時に担うことで、自社ビジネスの全体像を把握できるようになり、会社の強みと弱み、市場での機会や課題、そして、営業の狙いや気持ちがよく理解できるようになりました。さらに良いことは、市場の状況や会社の優先事項に合わせたマーケティング戦略も作れるようになりました。

 何が言いたいというと、少し強引ですが、企業の中でIT部門と経営企画部門のような企業戦略の策定やビジネス開発を担う部門とをくっつけてしまえばいいのです。例えば、前職のCisco Systemsには、マーケティング部門に専任のマーケティングIT担当者がいましたが、このように、IT技術者が現場や経営に近い部門で仕事をすることで、ビジネススキルとITスキルを併せ持った人材に育つのです。

最後に

 企業がIT技術者のための用意すべき環境について2つのヒントを示しました。もちろん、IT技術者自身も企業戦略や業務プロセスについて興味を持ち、勉強しなくてはいけません。

 日本では理系離れが言われ始めて久しく、大学の偏差値をみても理工系学部は文系学部と比較して特に高くありません。理系の端くれとしはとても残念なことです。IT技術者が“なんとかTech”の担い手になり、世の中で輝く憧れの職業になったらいいなと思います。この先、ITはますますビジネスや社会に必要とされ、ITの技術力が国の競争力に直結する時代になります。IT技術者がスター職業になれば、理工系学部に進学する若者が増え、国力が上がると思います。

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