国立大学法人東京工業大学と富士通研究所は2月1日、無線装置の大容量化を目指し、72から100ギガヘルツ(GHz)と広い周波数範囲に渡って高速かつ、低損失で信号処理できるCMOS無線送受信チップとそのモジュール化技術を開発し、世界最高速という毎秒56ギガビットの無線伝送に成功したと発表した。
なお、同成果については、東京工業大学は送受信回路の低損失化、広帯域化技術を、富士通研究所はモジュール化技術を主に開発している。今後は、スマートフォンなどの基地局間通信向けの無線基幹回線をターゲットとして、2020年ごろの実用化を目指すとしている。
CMOS無線送受信チップとそのモジュール(富士通研提供)
大容量データを無線伝送するためには広い周波数範囲を利用することが必要となることから、競合する無線アプリケーションが少なく広帯域なミリ波帯(30から300GHz)の利用が適しているとされる。
しかし、ミリ波帯は周波数が非常に高く、CMOS集積回路の動作限界に近いところで設計する必要があるため設計の難易度が高く、広帯域な信号を、高品質にミリ波帯へ周波数を変復調する送受信回路や、回路基板とアンテナを接続するインターフェース回路を低損失に実現することが困難という課題があった。
これに対し今回、東京工業大学と富士通研究所は、新たなCMOS無線送受信チップと、それを搭載した無線モジュールを開発した。今回の開発は、主に以下の2つの技術により構成されている。
送受信回路の低損失化、広帯域化技術
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今回新たに、データ信号を2つに分けて、それぞれを異なる周波数帯へ変換してから混合することで、送受信回路を広帯域化・低損失化する技術を開発した。低帯域信号は72~82GHz、高帯域信号は89~99GHzのそれぞれ10GHz幅ごとに変復調を行っている。
この技術により、20GHz幅の超広帯域信号においても、低雑音で、入力と出力の電力比が一定となる範囲が従来の10GHz幅と同等となる変復調が可能になり、高品質な信号伝送を実現。
また、ミリ波帯に周波数変換された信号を電波として送受信するための増幅器も合わせて開発した。周波数によって部分的に増幅率が低下してしまう信号成分に対し、出力信号の振幅を入力側へフィードバックすることで増幅率を安定化させる回路技術を用いて設計することにより、72~100GHzの超広帯域の増幅器を実現している。
開発した送受信機の構成(富士通研提供)
モジュール化技術
半導体チップ上でミリ波帯に周波数変換された信号は、プリント基板上の信号線路を伝搬して導波管(筒状の金属)アンテナへ供給する。このプリント基板と導波管の間を、超広帯域、かつ低損失に接続することが必要となるため、プリント基板上の配線パターンを工夫することで、超広帯域向けにインピーダンス整合させた導波管と基板の間のインターフェースを開発し、所望の周波数範囲で大幅に損失を低減した。
こうした開発の結果、室内において10cmの距離を隔てて2台のモジュールを対向させてデータ伝送試験を実施したところ、導波管と基板の間の損失について10%以下を実現し、世界最高速となる毎秒56ギガビットのデータ伝送に成功した。
今回開発した技術に加え、信号を増幅して伝搬距離を伸ばすための高出力増幅器技術や、超広帯域信号を処理するベースバンド回路技術を組み合わせることで、屋外設置可能な無線装置の大容量化が可能になる。これにより、新規に光ファイバを敷設することが困難な都市部や河川を挟んだ山間部などへも、無線による大容量な基地局ネットワークを展開できるようになり、快適な通信環境を提供することに貢献すると期待される。