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記事まとめ「テレワーク常態化で見えたこと」
OpenStackエコシステムの牽引役を担うのは誰だ

AWS化する世界、異なる未来を描くOpenStack

羽野三千世 (編集部)

2016-02-03 07:00

 Amazonが米国時間1月28日に発表した2015年12月期通期決算によると、同社のIaaS「Amazon Web Services(AWS)」の売上高は78億8000万ドル(1ドル=120円換算で約9450億円)で、前年比69%増加しました。この1年で同社がAWS上にリリースした新サービスは722にも上るそうです。IaaSのリーダーAWSの躍進はとどまることを知りません。

 AWSの背中を追うMicrosoftのクラウド事業も拡大しています。同じく米国時間1月28日に発表した2016年6月期第2四半期決算(9~12月)では、「Microsoft Azure」の売上高が為替変動の影響を除いて前年比140%増加しました。同社は企業向けクラウドサービスの売上高を2018年6月期末までに200億ドルにすることを目標に掲げており、CEOのSatya Nadella氏は今回の業績発表後の電話会見で「2016年度の企業向けクラウドサービスからの収入は94億ドルを見込み、200億ドルの目標達成に近づいた」とコメントしています。

 AWSを先頭に、Microsoft、IBM、Googleなどの巨大クラウドベンダーがIaaS市場を席捲して各社がぞれぞれの経済圏を拡大している今の構図は、2006年に「Amazon EC2」が登場し、大手ITベンダー各社がその動きに追従し始めた2007~2010年頃から予想されており、当時から「クラウドロックイン」が危惧されていました。そのような中で生まれたのが、オープンソースのIaaS構築ソフトウェア開発プロジェクト「Eucalyptus」や「CloudStack」、日本発の「Wakame-vdc」、そして「OpenStack」です。

OpenStackの誕生とあゆみ

 OpenStackは、完全なOSSのクラウド基盤ソフトウェアを開発するプロジェクトです。その開発は、2010年に、NASA(米国航空宇宙局)と米国のホスティング事業者Rackspace Hostingの共同プロジェクトとして始まりました。2010年1月にリリースされたOpenStackの初期バージョン「Austin」は、NASAが公開したコンピュートコンポーネント「Nova」と、Rackspaceが公開したオブジェクトストレージコンポーネント「Swift」の2つで構成されていました。

 2011年にNASAがOpenStackの開発から手を引き、その後2012年9月にRackspace、HP、Red Hatなどをプラチナメンバーとして非営利団体「OpenStack Foundation」が発足。以降は、OpenStack Foundationのコントロール下で、300社以上の企業が参画して開発が進められており、年2回メジャーアップデートされています。最新バージョンは2015年10月リリースの「Liberty」、次期バージョンは「Mitaka」です。

 現在のOpenStackは数多くのコンポーネントで構成されており、年々そのコンポーネントの数が増えています。OpenStack Foundationは、数あるコンポーネントのうち、「Nova」「Swiht」「Neutron(ネットワーキング)」「Glance(イメージ管理)」「Keystone(認証)」「Cinder(ブロックストレージ)」の6つをOpenStackの中核をなすコアコンポーネントに位置付け、特に開発リソースを厚くしていくとしています。

 OpenStackの各コンポーネントはウェブのREST APIで相互接続する仕様になっています。それぞれのコンポーネントは独立して動作可能なので、必要な機能だけを利用したり、特定の機能だけをスケールアウトしたりできるのが特徴です。また、ストレージやネットワーク機器のベンダー各社が自社製品にOpenStack対応ドライバを提供しています。そのため、例えば、Cinderを導入することで社内のマルチベンダーストレージ環境へのアクセスをAPIで標準化するといったようなことが可能です。

OpenStackコントリビューター各社のビジネス

 OpenStackプロジェクトは、企業の中のエンジニアが多く開発に関わっているのが特徴です。2015年時点で、Linuxカーネルの開発コミュニティで最もコミット数が多いのは所属企業のない個人開発者であるのに対して、OpenStackへのコミット数のトップ5は企業が占めています。

 コミュニティに開発リソースを提供するOpenStackコントリビューター各社は、コミュニティでの開発成果をさまざまな形で自社ビジネスに取り入れ、商用化しています。例えば、「Liberty」でのコミット数が最も多かったRed Hatは、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)上で動作するOpenStack商用ディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux OpenStack Platform」を提供しています。OpenStackパッケージの提供を通じて、コアビジネスのRHELのシェアを拡大させたい狙いがあります。

 また、Libertyのコミット数3位だったHPEもプライベートクラウド構築向けのOpenStack商用ディストリビューション「HPE Helion OpenStack」や、OpenStackとCloud Foundryをベースにプライベートクラウド環境を同社ハードウェア上に構成した垂直統合型アプライアンス「HPE Helion Rack」などを提供しています。OpenStackのプライベートクラウド構築のニーズを、同社のハードウェア事業の拡大につなげたい考えです。

 OpenStack Foundation設立時からのプラチナメンバーであるHPEは、当初、OpenStackをベースにAWS対抗のパブリッククラウド事業の拡大を急いでいましたが、1月末でパブリッククラウドから完全撤退しています。

 HPEに代わって、OpenStackベースのパブリッククラウドに注力しているのが、富士通、NTTコミュニケーションズなど国内クラウドベンダーです。富士通は、OpenStackとCloud Foundryベースのパブリッククラウド「K5」を提供しています。また、NTTコミュニケーションズは、OpenStackベースのパブリッククラウド「Cloudn」とホステッドプライベートクラウド「Enterprise Cloud」を統合した新しいハイブリッドクラウドサービスを“新しいEnterprise Cloud”として間もなく提供開始する予定です。パブリッククラウドの世界の強大な競合に対抗していくため、OSSコミュニティの力を取り入れてサービス開発を迅速化する作戦です。

一般エンタープライズ企業での活用はこれから

 今年で誕生から6年になるOpenStack。コミュニティでの開発が活発化し、商用ディストリビューションやOpenStackベースの商用クラウドサービスが登場する一方で、IT業界やテレコム、研究機関以外の一般エンタープライズでの利用はまだ進んでいません。

 OpenStack Foundationは、年2回開催している国際会議「OpenStack Summit」においてOpenStackの優れたユーザー事例を表彰する「Superuser Award」を実施していますが、2014年秋のOpenStack Summit Parisではフランスの研究機関CEREN、2015年春のOpenStack Summit May 2015 Vancouverでは米国のITサービスプロバイダーComcastが受賞しています。そして、2015年秋に日本で初開催されたOpenStack Summit Tokyo 2015では国内テレコム最大手NTTグループが受賞しました。OpenStackの主なユーザーは、まだITベンダーや研究機関なのです。

 一般エンタープライズの情報システム部門では、サーバ仮想化、クライアント仮想化が一巡し、目下の関心事はネットワーク仮想化になっています。OpenStackのネットワークコンポーネントNeutronは、これまで安定性や自動化に課題がありましたが、最新バージョンのLibertyで大幅に機能改善されました。OpenStack Foundationは、この先のSDN市場の拡大を見越して、LibertyではNeutronに最も多く開発投資したそうです。この先、ネットワーク仮想化の選択肢として、OpenStackのエンタープライズ導入が進むのでしょうか。

 あるいは、商用ディストリビューションや垂直統合アプライアンスの手軽さや信頼性が導入を後押しするのでしょうか。この特集では、「OpenStackエコシステムの牽引役を担うのは誰だ 」と題して、OSSの識者による対談や、OpenStackキープレヤー各社の戦略の解説を通じて、OpenStackのこれからを考えるヒントを提供します。

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