HybrisのCRMのビジョンにも触れる。「今日われわれが知るところのCRMコンセプトーーサイロ状で統合されておらず、一貫性がないーーは過去のものになりつつある」「さまざまなタッチポイントを利用するカスタマージャーニーを俯瞰できない、リアルタイムでもない」と批判した。
「必要なのはシンプル化だ」。SAPのキーワードでもある言葉だが、SAP Hybrisは「シンプル化されたフロントオフィスが実現する新しい世代」のCRMを提供する。具体的には単一のプラットフォーム、データ管理層を持ち、その上にコマース、マーケティング、課金、サービス、セールスが乗り、体験を司る層でサンドイッチするというものだ。
キーワードは「Simlify」。
クラウド戦略も掲げている。Thoma氏は、デジタル音楽を持ち歩ける「iPod」、楽曲を購入しiPodで楽しめる「iTunes」、これらをすべて集めた「iPhone」ときたのち、音楽ストリーミングサービスが生まれた、とデジタル音楽周りで起こった流れを説明。
「同じようなパラダイムシフトがエンタープライズソフトウェアでも起きている」と、クラウド周りの動きを指摘。だが、Salesforce.comやWorkdayなどの「第一世代」の次として、SAP Hybrisは新しい世代を切り開くという。これが、SAP Hybrisの「YaaS(Hybris as a service)」だ。
YaaSはすでに発表済みで、北米ではライブとなっているクラウドサービスだ。誰もが容易にサービスを開発、拡張できるプラットフォームを目指す。SDK、APIなども公開し、開発したアプリやサービスを販売するマーケットプレイスも用意する。
買収されたからできたこと
技術的にはCloud Foundry上に構築したマイクロサービスアーキテクチャで、これまでの製品を解体して、余計なものを除き、クラウドネイティブアーキテクチャへの実装に適したものにした。開発者はサインアップしてログイン後、すぐに利用でき、開発したものを実装してマネタイズするまでを1つのプラットフォームで実施できる。
これを「Hybris誕生以来の大きな変化」とThoma氏は言う。SAPの傘下となったことで開発を加速できたという。
SAP Hybris自身も自社製品の統合にYaaSを利用しており、本イベントで目玉の1つとなった、グラフデータベースを土台とした顧客プロフィール新サービス「SAP Hybris Profile」もYaaSベースだ。
「われわれは何度も自社を再構築しなおしている」とThoma氏は実感を込めて語る。そしてパートナーに対しても、SAP Hybrisの実装にとどまらず、一緒に製品を構築するなど自社の役割を考える必要があると呼びかけた。
YaaSは2016年中にグローバルでの提供を開始する意向で、1年後のSummitまでに利用顧客100社を目指す。
これに合わせて、競合他社についても触れた。「上位10社のソフトウェア企業の顔ぶれは10年後に大きく変わっているだろう」とThoma氏。競合としたスライドにはIBM、Oracle、Salesforceなどのロゴが並んだが、中でもSalesforce.comについては、「第一世代のクラウドベンダーとして尊敬している」と述べた。
「新しい世界、新しいクラウドへの道筋をSAP Hybrisが示し、ともにコラボレーションすることができるだろう」