顧客関係管理(CRM)などと違ってそんなにスムーズには進まないだろうとみられていた統合基幹業務システム(ERP)のクラウド化に、弾みがつきそうな動きが出てきた。その背景に注目したい。
今年からSAP ERPのクラウド化が進展すると判断
クラウドインテグレータの草分けであるテラスカイが先ごろ、SAP ERPをクラウドへ移行するための支援を行う新会社「ビーエックス(BeeX)」を3月1日に設立すると発表した。Salesforce.comやAmazon Web Services(AWS)のクラウドサービス導入支援を専門に手掛けてきたテラスカイが、企業の基幹業務システムの象徴ともいえるSAPビジネスに乗り出した背景にはどんな市場の“読み”があるのか。
新会社に関する発表内容については関連記事を参照いただくとして、ここではその前段としてテラスカイ社長で新会社の社長も兼務する佐藤秀哉氏が語った市場の読みが非常に興味深かったので取り上げたい。
「クラウド市場は今後も年間伸び率30%以上の高い成長が見込まれている。さらに、グローバルでは2019年にITインフラの50%がクラウド化すると予測されている。クラウド市場が伸びるだけではなく、IT市場全体においてのクラウド化率が高まることが非常に重要なポイントだ」
佐藤氏はまず市場動向についてIDCの調査結果をもとにこう説明し、今回新事業に乗り出した背景について次のように語った。
「ERPのクラウド化については当初なかなか進まないだろうといわれていたが、2013年ごろから事例が出始めて少しずつ市場が動くようになった。当社もERPの中でもとりわけ商圏の大きいSAPビジネスへの参入の機会をうかがっていたが、そのタイミングが今だと判断した。今年からSAP ERPのクラウド化が本格的に進展すると見ている」
SAP ERPの専門家が示したクラウド移行への“読み”
さらに、佐藤氏はSAP ERPのクラウド化に向けたユーザー動向の読みについて次のように語った。「国内のSAPユーザーは約2000社で、2020年にはそのうち半数が基盤を刷新し、さらにそのうち半数がパブリッククラウドへ移行すると予測している。新会社はその市場をターゲットにビジネスを広げていきたい」(図参照)
SAP ERPのクラウド化に向けたユーザー動向の“読み”
新会社の副社長兼最高技術責任者(CTO)に就任する広木太氏をはじめとして、設立メンバーにはSAP ERPに精通したスタッフが揃っているという。本当にそんなにダイナミックに移行するのかという気もするが、専門家の見立てだけにこの市場の読みは非常に興味深い。
今回のテラスカイの発表には、SAPジャパン社長の福田譲氏とアマゾンウェブサービスジャパン パートナーアライアンス本部長の今野芳弘氏も次のようなビデオメッセージを寄せた。
「テラスカイのクラウドにおける実績と知見に加え、BeeX設立メンバーのクラウド上へのSAPソフトウェア基盤構築・マイグレーションの実績により、クラウド分野におけるSAPの浸透をさらに加速させるものと確信している」(福田氏)
「SAPのシステムをAWSで稼働することにより、システム構築の時間短縮のみならず、ビジネスの変化に対する柔軟性強化など、さまざまなメリットをユーザーに提供できるようになる」(今野氏)
新会社の活動もさることながら、ERPのクラウド化に向けた専門家の読みが現実のものになるのかどうか。注目しておきたい。
記者会見に臨むテラスカイ社長の佐藤秀哉氏(左)とビーエックス副社長の広木太氏