IoT対応の遅れが日本にもたらす恐怖--NTT コミュニケーションズ指摘 - (page 3)

鈴木恭子 怒賀新也 (編集部) 2016年03月15日 06時45分

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「ハードウエアはおまけ」という事業モデル

――なぜ、IoTに取り組まないと国際競争力が低下するのでしょうか?

 米General Electric(GE)やドイツのSiemensといった産業機器メーカーは、単に優れたハードウエアを販売するだけでなく、製品に通信機能を組み込み、ネットワークを介してサービスやコンサルティング事業を展開しようとしています。つまり、製品の価値を、「ハードウエア(製品)」から「製品を使用して得られる顧客体験(サービス)」に移行しているのです。

 有名な例では、米GEなど航空機エンジンメーカーのビジネスモデルでしょう。同社は飛行機のエンジンを「製品として販売する」モデルから、「エンジンの利用状況に応じて従量課金する」モデルに変更しました。さらに複数のエンジンから収集した膨大なデータや飛行中の天候データなどを解析し、収益を最大化する飛行のノウハウまでもコンサルティングサービスとして提供するようにしたのです。

 Siemensなどのような産業機器メーカーも、今注力しているのは、ソフトウエアサービス部門の強化です。それらの企業にとって、事業の中核はソフトウェアサービスになり、ハードウェアはソフトウェアサービスに付随するおまけになるのかもしれません。製品をサービスとして提供するビジネスモデルでは、メンテナンスや点検などのほか、サービス内容のアップグレードといった、追加の付加価値サービスも簡単に提供できるようになる。つまりビジネスの幅が広がるのです。

変化対応力を問われる日本メーカー

 一方、日本のメーカーの多くは「高性能なハードウエアを販売する」というビジネスモデルに固執しています。しかし、これでは日本国内だけでなく、グローバルでのニーズを満たすことは難しいでしょう。今後は、専門的なスキルを有する人材の不足をカバーするようなサービス提供が求められます。

 製造業などでは、スキルを持ったエンジニアや専門的なオペレーターが圧倒的に不足しています。生産拠点が開発途上国にある場合、現地の従業員が複雑な生産機器の運用やメンテナンスをすることは難しい。そうした場合は、メンテナンスや修理までがパッケージになっている製品やサービスを提供している方がありがたいのです。どんなに高性能な製品でも、使いこなせる人材がいなければ無用の長物です。

――こうしたニーズに柔軟に対応できないと、決定的な敗北を喫するということですね。

 ビジネスモデルを変更するには商習慣や社内プロセスの改革が必要ですが、日本企業のトップは、意思決定を下すのに慎重です。もちろん、すべての事業部でGEの真似をする必要はありませんが、特定の部門で「製品をサービスとして販売し、製品から収集したデータ解析を基に、新たな付加価値サービスを提供する」というビジネスモデルを、試験的に導入する必要があるでしょう。

 お客様からお話を伺うと、現場ではビジネスモデル改革の必要性を感じていても、経営トップが明確な費用対効果を求め、投資をしたがらないというんですね。現場が「やってみないとわかりません」というと、却下されてしまうケースが多い。

 一方、欧米の製造業の企業の多くは、IoTでビジネスモデルを変えていく必要性を感じています。「(IoT導入に)チャレンジするリスクよりも、やらないで遅れを取るリスクのほうが大きくなってきた」と判断しているそうです。

 チャレンジする企業の背中を押すのは、株主や政府でしょう。社会全体で機運を作ることも大切ではないでしょうか。日本企業が過去の成功体験にしがみついていれば、世界的な競争力を失います。

――日本企業の課題として、OT(Operational Technology)と呼ぶ製造現場のエンジニアリング系と、オフィスのIT(Information Technology)系のオペレーションが別ラインであることがしばしば指摘されます。

 ほとんどの日本企業は、IT系とOT系が分断されています。しかし、両者の交流がなければ、製造ラインや製品を、IoTを導入して製造ラインをネットワークで監視し、オペレーションの最適化を図るといったことはできません。

 これを解決するためには、企業のトップが「ITとOTは連携する必要がある」と課題意識を持つことです。また、先述した通り、ソフトウエアエンジニア、システムエンジニアは絶対的に不足していますので、ITとOTの両方を理解した人材を、子会社やパートナー企業とともに、戦略的に育てることも重要です。人材育成に関しては、国を挙げて取り組む必要があるでしょう。

 しかし、これには時間が掛かります。手っ取り早い施策は、現場のエンジニアにIT系のスキルを身につけてもらうことです。また、海外企業ともパートナリングをし、IT系とOT系の橋渡しができるチームを作ることです。すでに欧米では一般企業でもIT人材を多く抱えています。彼らに追いつくためには、こうした施策を迅速に行う必要があります。

――IoTを推進するにあたり、国が取り組むべきことは何でしょうか。

 日本においてIoTに関するセキュリティガイドラインは存在しません。一方、情報システムは、セキュリティ基準や認証が整備されています。今後、こうしたガイドラインは、IoTでも必ず必要になります。

 2015年12月に経済産業省が公開した「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」は、情報システムを対象にしたものです。一方、2015年5月に公開された「重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係る安全基準等策定指針(第4版)」では、制御システムの安全対策にも言及しています。

 今後は、同指針に書かれている具体的な内容(ガイドライン)を、制御システムを利用している企業と協力しながら詳細化する必要があるでしょう。

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