「Microsoft HoloLens」国内初披露、JALが操縦士と整備士の訓練に活用

阿久津良和

2016-04-18 16:23

 日本航空(JAL)は4月18日、Microsoftが開発したヘッドマウントディスプレイ(HMD)「Microsoft HoloLens」の業務利用のプロトタイプを発表。同日、航空機の運行乗務員および整備士の訓練用に独自開発したHoloLensアプリケーションを披露した。現時点ではコンセプトレベルだが、今後現場への導入を進めていくとする。

 Microsoftは、昨日開催した開発者向けカンファレンス「Build 2016」で、HoloLensのビジネスパートナーとして25社を発表。そこにはNASAやVolkswagenなどの企業・団体と並び、唯一の国内企業としてJALが参画しており、何等かのアプリケーションの開発が進行していることをうかがわせていた。同日がその発表となった。


HoloLensを手にするJALの現役パイロットと整備士、中央はMicrosoft HoloLens担当General Manager Scott Erickson氏

 HoloLensは、サングラスのような透過型ディスプレイを頭から固定するタイプのデバイス。透過型ディスプレイ上にホログラムを表示し、現実空間とホログラムとの融合(Mixed Reality、MR:複合現実)を実現する。Windows 10を搭載し、独立したPCとして稼働する。そのため、Windows 10向けに開発されたアプリケーションであればPC同様に動作するが、3DホログラムのHoloLensアプリケーションの開発は、今のところ「Unity」と「Visual Studio 2015」の組み合わせでのみ可能だ。

 現在は、米国およびカナダ向けにHoloLensの開発者向けディションが提供されている。日本国内での提供時期は未定ながらも、今回、アジア地域の企業としては1番乗りで、JALが導入を実現した。

コクピット内部やエンジン構造をリアルに再現

 今回、JALがMicrosoftと共同開発したHoloLensアプリケーションは、パイロット訓練生および整備士訓練生の教育を支援するものだ。

 パイロット訓練生向けには、HoloLensを使って、ボーイング737-800型機のコックピット空間を視界上にリアルに再現。コクピット内の計器やスイッチを押す操作も可能になっており、副操縦士昇格訓練におけるトレーニングツールに活用する。


会場のディスプレイに映し出すため有線接続になっているが、HoloLensは無線接続で利用する。フライトの手順を実際に確認しながらホログラフィックのスイッチを操作していた

 JALの説明によれば、操縦士の訓練の初期段階では、これまではコクピット内のスイッチ類を模した写真パネルに向かい、操作をイメージしながら操縦手順を学習していくという。この部分をHoloLensが担い、映像と音声ガイダンスに従って身体を使ったシミュレーションを繰り返すことで、訓練の効果を高めていくことを狙う。

 整備士の養成訓練においてはエンジン自体の構造や部品名称、システム構造を的確に把握しなければならないが、航空機が運航していないスケジュールを活用するなど、訓練時間が限られているという。エンジンパネルを開けないと学べないエンジン構造の教育などにHoloLensを活用し、時間を選ばずに質の高い技能習得を期待するとJALは説明する。

将来的には航空機1台を丸ごとMRに持ち込む

 説明会当日は平成28年熊本地震の対応により、日本航空 代表取締役社長 植木義晴氏は欠席したが、「JALグループは次世代に向けたイノベーションに挑戦するため、社内外を問わず、その手段を検討してきた」と今回の取り組みを関係者が代読した。植木氏は35年間のパイロット経験を振り返り、自身が訓練生の頃は紙を壁に貼り付けてスイッチ操作の練習を繰り返し、周りの訓練生に見てもらいながら身体で覚えていったと説明。HoloLensと専用アプリケーションの導入に伴い、訓練生の学習環境は大きく変化することを確認しているという。

 会場では本プロジェクトに携わったJAL HoloLensプロジェクトリーダー 速見考治氏と、同プロジェクトマネージャー 澤雄介氏によるデモンストレーションを披露。整備士用のアプリでは、ホログラフィックに映し出されたエンジンを指で操作し、自由な角度から視認して各部品の構造や動きを確認できる様子を紹介した。実際に部品へ視点を移して指でクリックするとエンジンオイルの流れ方などをアニメーションで再現し、音声による説明も行われる。


HoloLensを装着した視点をディスプレイに映し出している様子。エンジンを指で操作し、自由な角度から構造を確認できる

 パイロットの訓練でも、音声アナウンスと操作すべき計器が光るといったナビゲーション付きで手順を学べる。一見すると既存のシミュレータでも十分に思えるが、訓練用シミュレータは高額かつ台数も用意できないため、「HoloLensがあれば自宅でも訓練が可能」(速見氏)だという。現時点では部分的な取り組みだが、将来的には航空機1台を丸ごとMRに持ち込むことがプロジェクトのゴールだと速見氏は説明した。

 説明会にはMicrosoft HoloLens担当General Manager Scott Erickson氏も登壇し、Microsoft側の取り組みを次のように説明した。「HoloLensは、MRを実現する単独のコンピュータだ。ホログラフィックを現実の世界に溶け込ませ、物体以外の周りの人とも相互に関わることができる」と、Build 2016で披露した遠方の相手とも同時にコミュニケーションできる機能をアピールした。

 ここに至るまでは、日本マイクロソフト 代表執行役 会長 樋口泰行氏が米国本社に橋渡しをすることで、JALによるMicrosoftへのプレゼンテーションを行い、初期のビジネスパートナーに招待されたという。HoloLensは米国レドモンドを始めとする各国に開発部隊が存在するが、今回のJALとの共同プロジェクトはMicrosoft Londonが担当。日本マイクロソフトも技術コンサルティングを行った。

 JALは航空機の設計図面を持ち合わせていないため、必要箇所を写真撮影することで3Dホログラフのコンテンツを作成したという。HoloLensへの実装はMicrosoft側が担当した。

 会場では、プレス向けにHoloLensの体験会も実施された。筆者も装着してみたが、視点の移動に合わせて仮想物体が移動する様は、Augumented Reality(AR:拡張現実)のように遅延せず、まるでそこに物体があるかのようだ。また、VRとは違った没入感も覚える。

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