先週に開催されたカンファレンス「SAPPHIRE NOW」で、SAPの最高経営責任者(CEO)McDermott氏は、いくつかの有名な顧客企業の最高情報責任者(CIO)が同社に好意的でない評価を下しており、同氏に対して、SAPは十分に顧客のニーズに耳を傾けていないと訴えたことを認めた。
SAPPHIRE NOWに登壇したSAP幹部陣。(写真左から)Rob Enslin氏、Steve Singh氏、Bill McDermott氏、Luka Mucic氏、Berndt Leukert氏
これは、SAPの「共感不足」が問題だったわけではない。実際、McDermott氏よれば、2015年に3200社の顧客が次世代アプリケーションスイートである「S/4HANA」に移行する契約を結んでおり、S/4HANAは同社の製品として過去最高の伸び率を記録しているという。筆者の同僚であるHolger Mullerの記事によれば、その3200社のうち、160社が移行済みで、800社が実装作業中であり、残りの企業は契約はしたがまだ「準備中の段階」だという。
しかしMcDermott氏は、急いで移行するために近道をした例が何社かあることを認めた。これが、同氏が詳細な製品ロードマップや、業界別の移行手順、企業幹部に対する「価値保証」の提供を約束した理由だ。McDermott氏は、問題は技術的なことではなかったと述べている。好意的でないCIOが求めていたのは、「SAP Business Suite」をS/4HANAに移行する際に、誰が、いつ、何をすればいいかという、より詳しい情報だった。さらに、企業幹部は、投資がビジネス上のメリットを生むという保証を欲していた。
SAPは共感に関する約束を前面に出しながら、SAPPHIRE NOWの大部分を、S/4HANAと「HANA Cloud Platform」の成熟と普及を加速すること、そしてSAP自身の破壊的なデジタル化の取り組みについての発表に費やした。
Microsoftとの協力関係:SAPとMicrosoftは、古くからあるパートナーシップ(「Duet」を覚えているだろうか?)を拡大し、新しく、より深い協力を進めていくことを発表した。その手始めは、S/4HANAと「HANA」に関する「Microsoft Azure」の認定だ。その代わり、SAPは既存の「Office365」との統合機能を拡大し、「Outlook」と「Concur」のリンクによる経費報告機能や、Outlookと「SuccessFactors」を結びつけて、人事上のリクエストや警告を促進する機能などを追加する。
筆者の評価:SAPはIBMとも実装とクラウドについて協力関係を結んでいるが、Microsoftとの協力関係にはさらに大きな可能性がありそうだ。人気の点でAzureを上回るのは、「Amazon Web Services」だけだ。さらに、Microsoftの中小企業顧客の多くは、クラウドを利用しようとする傾向がある。それらの企業は、これでS/4HANAを馴染みのあるプラットフォームで利用できるようになる。
SAP API Business Hub:SAPは、HANA Cloud Platformの最新リリースの一部として、このAPIハブのベータ版を発表した。このハブは、顧客とパートナー開発会社が、協力して新しいアプリケーションプログラミングインターフェースを開発し、そのAPIに簡単にアクセスできるように設計されている。
筆者の評価:取締役のBernd Leukert氏は、質疑応答セッションで、SAPのエコシステムがAPIを欲する理由は、主にSAPのシステムや外部システムに存在するデータにアクセスできるようにし、新しいアプリやサービスを作成するためだと答えている。このハブは、従来のSAPのアプリケーションに対するAPIをサポートしているだけでなく、人工知能やコグニティブコンピューティング、データ可視化、地理空間分析などの最新の機能にも対応している。APIが早く提供されることはもちろん極めて重要だが、API Business Hubに大きなビジョンがあるのはよいことだ。