ドイツのSAPは5月17日、米フロリダ州オーランドで年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2016」を開幕させた。2万人の来場者を前に基調講演に立った最高経営責任者(CEO)、Bill McDermott氏は「Empathy(共感)」をキーワードに顧客、そして顧客の顧客に耳を傾ける姿勢を強調した。
28回目となる今年は基調講演のスタイルが大きく変わった。以前の単独のスピーチ中心の形式ではなく、幹部や顧客、パートナーとの対談を交え、CEO自らが「耳を傾けるSAP」を表現して見せた。
最大のメッセージは「共感」
McDermott氏は、今年のSAPPHIRE NOWのメッセージとして「共感(Empathy)」「完全なビジョン」「シンプル」の3つを挙げた。
共感の意図は「教養があり、知的好奇心があり、より思いやりのあるSAP」。McDermott氏は、自身とSAPの幹部が世界中の顧客企業のCEOや最高情報責任者(CIO)に会い、「顧客を知り、顧客の問題を知りたい。それを解決したい」と実感したと明かす。
それをEmpathy(共感)という言葉で表現した。さらに、会場に向かって自分のメールアドレスを伝え、意見やフィードバックを求めるという演出も見せた。
2つ目のビジョンは、2010年に共同CEOとしてSAPのトップに就任時に打ち出した、クラウド、モビリティの方針とそれに基づくイノベーションへの投資だ。中心はインメモリ技術「HANA」で、データベース、開発プラットフォームと役割を拡大させてきた。
2015年にはHANAを土台にERPを刷新した「S/4 HANA」を発表している。また、Sybaseに始まり、SuccessFactor、Ariba、Hybris、FieldGlassなど企業買収にも積極的に取り組んでいる。
3つ目のキーワード、シンプルが意味するのはここ数年SAPが提唱してきた“Run Simple”だが、「シンプルは簡単なことではない」とMcDermott氏。だが、課題が大きければチャンスも大きい。「人々の生活をより良くし、世界を変えられる」とMcDermott氏はSAPのミッションを強調した。
機械学習、AI、ARは業務システムも変える

SAPのCEO、Bill McDermott氏。2015年夏の事故で左目を失明した。SAPPHIRE NOWにサングラス姿で登壇し、完全復活をアピールした。
技術トレンドについての見解も示す。「クラウド、モビリティ、ビックデータ……。ずっと言ってきたことだが、この作業を完成させる」と述べる。今後、5〜10年の間にさらなる「Disruption」(崩壊)が起こるだろうと予言した。
技術としては、機械学習、人工知能(AI)、拡張現実(AR)に注目しており「(これらの技術を活用した)インテリジェントなアプリケーションが、社内での働き方、社外とのコラボレーションを大きく変えるだろう」と述べている。
企業の22%が売り上げ予測を信用していないことを取り上げ「CRM、SFAといった概念は過去のものだ。われわれに必要なのは、次に何をすべきかを事前に伝えるシステムだ」とMcDermott氏。
機械学習を利用することで、営業サイクルで採用するべき次のステップをアドバイスしたり、アラートを出したり、どのような成果がどのぐらいの可能性で予想されるかなどを伝えたりなど、雇用の際に最適な人材を配置できるという。このほかにも、機械学習などが寄与できる分野としてサイバーセキュリティも挙げた。