SAPとMicrosoftが企業向けクラウド分野で協業拡大を図った。マルチクラウドやハイブリッド利用ニーズに対応して「競争」と「協業」が入り交じる同分野だが、今回の動きは果たしてどのような波紋を呼ぶか。
「競争」と「協業」が入り交じるクラウド市場
両社の協業拡大は5月17日(米国時間)、SAPが米フロリダ州オーランドで開催している年次イベント「SAPPHIRE NOW 2016」の基調講演で、同社のBill McDermott CEO(最高経営責任者)がMicrosoftのSatya Nadella CEOをゲストに迎えて発表された。
協業拡大の内容は、SAPの最新ERP「S/4 HANA」を含むインメモリデータベース「SAP HANA」をMicrosoftのIaaS/PaaS「Microsoft Azure」で動作保証し、Azure上でのHANAの展開に両社が協力して取り組むことを柱に、両社のSaaSも密接に連携させていくとしている。
両社が企業向けクラウド分野での協業を最初に発表したのは2014年5月。Azure上でSAP製品を利用できるようにした形でHANAも対象になっていたが、今回の協業拡大ではその後SAPが投入したS/4 HANAや新たなSaaSも対象とし、相互利用環境を一層深めた格好だ。これによって両社は、お互いのユーザーに利用拡大を図っていくことができるようになる。
両社が協業を拡大した背景には、企業においてマルチクラウドやハイブリッド利用ニーズが高まってきていることがある。このため、クラウドサービスベンダーの間では競争と協業が入り交じった動きが見られる。
最も象徴的なのはMicrosoftの動きだ。同社はここ3年間で、Oracle、SAP、Salesforce.com、IBMといった競合と相次いで協業関係を結び、Azure上で各社の製品やサービスを利用できるようにするとともにSaaSの相互連携などを図ってきた。こうしたオープンな協業戦略はNadella CEOが打ち出した方針によるものである。
企業向けクラウド分野でSAPとOracleが対立軸に
SAPもここ2年間で、IBM、Microsoft、Appleなどと協業関係を結んでいる。特にIBMとは、2014年6月にIBMのクラウド基盤でSAP製品を利用できるようにし、同10月にはHANAによるミッションクリティカル対応のクラウドサービスをIBMのデータセンターから利用できるように協業拡大した。
また、Appleとは先ごろ、HANAを活用した「iPhone/iPad」向けアプリケーションを展開していくことで協業。Appleは2年前からIBMとも似た内容での協業を発表しており、今後、Apple、IBM、SAPの3社が連携して動き出す可能性もある。この協業は、企業向けに最適なモバイル利用環境を実現するのが狙いだが、その基盤はクラウドが担う形になる。
ちなみに、IaaSで先行するAmazon Web Services(AWS)は同様のサービスを展開するベンダーにとって競合ではあるが、ソフトウェアベンダーであるMicrosoft、Oracle、SAPにとっては、かねてから製品を提供する協業相手でもある。こうした状況を踏まえると、上記に示した相次ぐ協業の動きは、クラウドサービスの主戦場がPaaSおよびSaaSへ、そしてハイブリッド利用へと移行しつつあることを物語っているともいえそうだ。
あらためて、今回のSAPとMicrosoftの協業拡大はどのような波紋を呼ぶか。注目されるのは、SAPと協業関係にあるIBM、Microsoft、AppleがいずれもHANAを高く評価していることだ。とすると、今後の企業向けクラウド分野ではSAPとOracleが大きな対立軸になるのではないか。両社ともデータベース(PaaS)と業務アプリケーション(SaaS)を展開し、多くのオンプレミスユーザーによるクラウドのハイブリッド利用に対応する立ち位置にいるからだ。
果たして、今回の動きを受けてOracleはどんな手を打つのか。MicrosoftはSAPとOracleのどちらの協業関係を重視するのか。そして肝心のユーザーは“土俵”が変わりつつあるクラウドのパートナーとしてどこを選ぶのか。今回のSAPとMicrosoftの協業拡大は、そんなクラウド市場の動きに少なからず波紋を投げかけるものになりそうだ。