より賢く活用するためのOSS最新動向

OSSコミュニティとの付き合い方:コミッタになるということ

吉田行男 2016年06月21日 08時00分

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 こんにちは、日立ソリューションズの吉田です。

 今回も、コミュニティに貢献するということがどのようにビジネスにつながっているかという点について、説明したいと思います。その中でわかりやすい例として「コミッタになる」ということについて、話を進めていきたいと思います(関連するこれまでの連載記事:変わる「OSSコミュニティ」との付き合い方OSSコミュニティとの付き合い方 ~PGEConsの実践~)。

OSSコミュニティで活躍する日本人コミッタ


 2014年12月に大規模データを対象とした並列分散処理を実現するオープンソースソフトウェアApache Hadoop(以下Hadoop)およびその関連のプロジェクトのコミッタに、小沢健史氏(NTTソフトウェアイノベーションセンタ)、鯵坂明氏、岩崎正剛氏(NTTデータ システム技術本部)の3人が就任しました(関連情報)。コミッタとは、開発やメンテナンスにおいて、プログラムを書き換える権限を持つ主要開発者のことで、Hadoopの場合は2014年12月時点で、全世界の約3000人の開発者のうち、コミッタはわずか100人程度でした。Hadoopにおいては、日本企業から初のコミッタ就任となりました。

 その後、2015年6月にNTTデータ システム技術本部の猿田浩輔氏が、分散データ処理ソフト「Spark」のコミッタに就任しました(関連情報)。日本企業からSparkのコミッタを輩出するのはこの時が初めてでした。また、2016年1月に鯵坂明氏と小沢健史氏は、Hadoopおよびその関連のプロジェクトのプロジェクトマネジメント委員(PMC)に就任しました。PMCとは、Hadoopの開発やメンテナンスにおいて、主要機能追加の決定やコミュニティメンバーの推薦など、コミュニティの運営も担う主要開発者のことで、現在、Hadoopの開発に関与している全世界で約3000人のうち、PMCはごく一部(64人:2016年1月現在)に限られています。

 また、2009年11月に設立されたHadoopユーザー会でもNTTデータの技術者が多く積極的に参加しています。Hadoopユーザー会は、2009年から「Hadoop Conference Japan」を開催しており、2016年は、「Spark Conference Japan」を併設するなど、活発に活動を継続しています。

 NTTは2006年4月に、NTTグループにおけるTCO削減、SI競争力の強化を目的に「NTT OSSセンタ(以下OSSセンタ)」を立ち上げました。OSSセンタでは、NTTグループ企業を対象に情報提供や技術支援、複数OSSミドルの組み合わせ検証、大規模・高信頼・高性能システムへの適用に向けたOSSプロダクトの機能拡充/品質改善のためのコミュニティ活動を推進しています。


 中でも、PostgreSQLのコミュニティには、新機能や性能改善のための開発で大きく貢献しており、9.xにおいては国内トップのパッチ貢献数を誇っています。前回ご紹介したように、「PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)」では、NTTの岩田OSSセンタ センタ長が理事長に就任するなど、中心メンバーとして活動しています。

 また、4月に開催された「OpenStack Summit Austin」で、日本人2人が新たにPTL(Project Team Lead)に就任しました。今回、就任したのはNECアメリカの大道憲一氏(関連情報)と、富士通の加藤智之氏です。大道氏は、約50個あるOpenStackコミュニティのプロジェクトの中で重要なプロジェクトのひとつ、QA(Quality Assurance)と呼ばれるOpenStackの品質をあげるためのプロジェクトのPTLです。他にもNovaのコアデベロッパーとして活動されていて、OpenStackの開発には最初から参画されています。

 もうおひと方の加藤氏は、翻訳つまりInternationalization(I18n)プロジェクトのPTLです。翻訳というのは簡単に言えばOpenStackをさまざまな言語に翻訳を行うプロジェクトで、加藤氏は3年ぐらい前からOpenStackの翻訳に関わってきました。

コミッタを輩出することのビジネスメリット

 さて、コミッタやPMC、PTLなど、OSSコミュニティの主要開発者になることにはどのような意味があるのでしょうか。所属企業にとって何か良いことがあるのでしょうか。これには、下記の2点が考えられます。

  1. コミュニティに対する開発の方向性への影響力
    主要開発者になることにより、どのような機能を入れるべきか、どのような分野に注力するべきかといったことに影響を与えることができます。コミュニティは、一般的に売りになるような新機能の開発や従来からある機能の改修を優先して行うという傾向があります。しかしながら、システム構築の現場では、監視や運用管理などを行い、安定的にシステムを稼働させることが最大の課題であり、このような機能が開発されることを期待しています。従って、新機能よりも安定して稼働させるための監視や管理機能を優先する傾向があります。このように、システム構築の現場で日々感じていることのなかで、特に運用上問題となるバグの改修や利用者向けのドキュメントの拡充を行うことによって、利用者にとって活用しやすいOSSにすることができます。
  2. 社外への技術力のアピール
    コミッタとは、先ほど説明したようにプログラムを書き換える権限を持つ主要開発者のことですが、利用者が利用している中で思いついた改善のリクエストや発見した不具合に対して、開発者が新機能を開発したり、不具合を修正した内容を投稿してきます。そのような投稿の内容に関して、レビューを行い本体への取り込みの可否を投票し、認められたものを本体プログラムの書き換えを行います。従って、コミッタは、そのプログラムの内容を熟知している必要があります。熟知している内容も自らが開発している局所的なものではなく、プログラム全体の構造や、プログラムの詳細を理解している開発者のはずです。つまり、その技術者が関与しているプログラムに関しては、とても詳しいことになり、所属企業にとっては対外的に技術力の証になります。

 とはいえ、コミッタやPTLになることは容易ではありません。長年のコミュニティでの活動が認められた結果ですから、コミッタを出すために所属企業としては、多大なる投資が必要になります。

 では、なぜコミュニティに還元するのでしょうか?さきほど、ご紹介したようにコミッタは、自社のビジネスを進めていく上でも大変有利になるように開発をリードすることができます。また、エンドユーザーから見るとシステム構築を発注しているベンダーに活用しているOSSに詳しい技術者がいるということは、とても安心できるということになり、エンドユーザーから選ばれる企業ということになります。


 要するに、技術力の優位性がそのままビジネス上の優位性につながっていくことになります。商用ソフトの場合は、資格試験をベンダーが用意し、その資格取得者がどれだけいるかということで、エンドユーザーはシステムインテグレーターを選択することがありますが、OSSの場合は、コミッタやPTLがいることによって、そのOSSに関して技術力があることが証明されます。もちろん、OSSにもLPIが実施しているLinuxやOpenStackの資格試験やRedHatのようなベンダが提供している教育や資格もありますので、必要に応じて、育成することをおすすめします。

 このようにコミッタやPTLがいることで、ビジネス上の優位性を保持することができるわけです。しかしながら、前述のようにコミッタには簡単にはなれません。また、時間も必要になります。最も重要な点は今後有望な技術を見極める能力になります。3年かけてコミッタになったら、その技術はすでに陳腐化していたという状況になると、目も当てられません。投資が無駄になるだけではなく、技術者のモチベーションも一気にダウンしてしまい、立ち直れなくなるかもしれません。とはいえ、すでに一般化してしまった技術を追いかけても、そのコミュニティの中で存在感を占めるのは、もっと容易ではありません。

 ということで、ここまで読んでいただいた方は、もうお分かりだと思いますが、どのOSSに注力するかということは、その企業がどのようなビジネスに注力するかということと同じであるということになります。お客様から求められるシステム構築に必要になるであろう技術を見極め、あらかじめ先回りして投資することで、技術的に優位なポジションをとることができます。商用ソフトウェアの場合と違って、OSSの場合は技術検証をするだけではなく、機能の開発に関わることにより、自社の特徴を出すことができます。そして、それが自社のビジネスを推進していく上での大きな原動力になります。

※本文中記載の会社名、商品名、ロゴは各社の商標、または登録商標です。

吉田行男
日立ソリューションズ 技術開発本部 研究開発部 主管技師。 2000年頃より、Linuxビジネスの企画を始め、その後、オープンソース全体の盛り上がりにより、 Linuxだけではなく、オープンソース全般の活用を目指したビジネスを推進している。 現在の関心領域は、OpenStackを始めとするクラウド基盤、ビッグデータの処理基盤であるHadoop周辺及びエンタープライズでのオープンソースの活用方法など。

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