2016年のウィンブルドンテニス選手権では、世界中のファンと繋がるために最先端の技術が使われているが、主催者はこれらの技術がテニスのプレーから注意を逸らしてしまう結果にならないように、注意を払っている。
この大会を運営するオール・イングランド・ローン・テニス・クラブ(AELTC)は、IBMと長期契約を結んでおり、同社は毎年この大会で新たなテクノロジをお披露目している。
例えば今回はウィンブルドン選手権のための「Apple TV」用アプリが新たに導入された。このアプリを使うと、ユーザーはリアルタイムでスコアをチェックしたり、ウィンブルドン大会のテレビ番組を見たり、生放送のラジオ番組を聴いたり、動画や写真を閲覧したりすることができる。また、「iOS」と「Android」用の応答性の高い「The Championships, Wimbledon」アプリでは、自宅で観戦するファンに個人に合わせた情報を提供するほか、ウィンブルドンで観戦する予定のユーザーに対して、事前に観戦の計画を立てるためのオプションが新たに提供されている。
ウィンブルドンではまた、IBMのコグニティブコンピューティングサービス「Watson」を利用して、ウィンブルドンと同時に開催されるほかのスポーツイベント(クリケット、自動車レース、欧州のサッカー選手権など)に関するTwitter、Facebook、Instagramなどのソーシャルメディアのトラフィックを分析し、ソーシャルメディアチームが関連する記事や画像を宣伝するチャンスを見つけようとしている。
ウィンブルドンのウェブインフラも、大会が開催される数週間のために規模を拡大させる必要がある。2016年のウェブサイトはこれまでで初めて、4カ所(米サンノゼ、加トロント、英ロンドン、豪メルボルン)で運用されているIBMのハイブリッドクラウドと、2カ所のプライベートクラウドデータセンターでホストされている。
IBMのウィンブルドンプログラム担当役員であるSam Seddon氏は、「Novak Djokovic選手がセンターコートに入場する時にトラフィック量が急増することは分かっており、これに対応できるサービスを提供する必要がある。しかし、次の急増がいつ起こるかは分からず、こういう局面でクラウドの特長が役に立つ」と語る。
セキュリティも問題の1つだ。IBMによれば、2014年から2015年までの間にサイバーセキュリティ攻撃は500%増加しており、Seddon氏は、2016年は「セキュリティ事象」がすでに1500%増加したと言う。
これらのイノベーションの多くは、コートサイドで収集された試合データに支えられている。こうしたデータはシステムに取り込まれ、そのシステムを使って解説者にリアルタイムの情報が提供され、試合に関する分析、統計、背景情報などが収集され、アプリに対するサービスが提供されている。しかしこれらのデータを記録しているのは、コンピュータを使ったシステムではなく、人間の専門家だ。