米Microsoftが6月13日、ビジネスSNSとして米国で広く認知されている米LinkedInを買収すると発表した。個人の職歴情報など巨大なデータを基盤に、新たなソフトウェアの開発つなげようとしていると言われる。
MicrosoftのDynamicsアジア担当バイスプレジデントのSimon Davies氏は、LinkedInと、CRMおよびERP機能を統合したDynamics 365との連携イメージについて、まだ買収手続き中と前置きした上で「(Microsoft CEOの)Satyaといろいろ話している中で、CRMソフトウェアはもっと深い洞察をもたらす可能性を秘めている。デジタルとフィジカルの世界を統合できる」と述べる。
それを実現する上で、ビジネスユーザーがLinkedInで公開している情報をソフトウェアに取り込むことで、企業ソフトウェアの可能性を広げられると考えている。
日本では現状、LinkedInを含め米国ほどビジネスSNSが普及しているとは言えない。だが、Microsoftの動きからも想像できる通り、今後の市場拡大が見込まれる。
ビジネスSNS市場の今後について、日本市場における第一人者であるWantedlyの仲暁子社長に話を聞いた。
Wantedlyの仲暁子社長
日本でビジネスSNSを展開するにあたり、技術者やデザイナーなどのビジネスユーザーが「セルフブランディングをしながら、企業と人をマッチングできるようにしている」と仲氏は話す。現在、利用企業は1万7000社。料金は12カ月契約の場合で月額3万円。20、30代が利用者のボリュームゾーンだという。
ビジネスSNSとして、仲氏が考える今後の方向性は、例えばTOEICやTOEFL、英検のような外部機関とのデータベースの連携だ。セルフブランディングをしたいビジネスユーザーが集まる場において、スキルを認定するような機関は相性が良いと考えられる。
Wantedlyが既に開始しているものとして、2月に開始した社内ツールの口コミサイト「Wantedly Tools」がある。6月13日のリニューアルにより、企業が利用するさまざまなツールの使い勝手や評価といった情報が分かるようになった。
情報共有、コミュニケーション、プロジェクト管理、マーケティングといったさまざまな切り口で、利用されているツールのランキングや使い勝手に関する口コミ情報を載せている。今回、「経理・財務ツール」を追加し、freeeや弥生オンライン、MFクラウド会計といったクラウド会計ツールなどの情報の提供も開始した。ソーシャルの特性をうまく利用して、ツールの評価をガラス張りにする。
仲介需要消滅の先にあるもの
あまり普及していなかったビジネス分野でのSNS拡大を目指す仲氏。背景には、若手社長らしさとも言える「現代的絶望感」のようなものも見て取れる。
「Facebookなどが幅広く普及したことで、常に監視される世の中になった」と仲氏。
一方で、「採用で言えば、ソーシャルメディアによる裏取りが簡単になっているため、学歴だけで実力がない人などは淘汰(とうた)される。人も企業も丸裸になるため、良い意味で情報の非対称性がなくなる。逆に言えば、(見かけ倒しが通じないため)まじめに実力をつけた人は報われる」とポジティブな見方をする。
情報の非対称性を利用するビジネスは多いが、SNSの世界ではその「ムダ」がなくなるため、仲介需要が発生しないとの見解だ。
「仲人のような存在がなくなる分、人と人が生身でぶつかることになる。だが、長期的にはそれは健全であり、サステイナブルである」(仲氏)
窮屈さと表裏一体にある、ソーシャルメディアという場の魅力を独自の視点でとらえ、ユーザーに還元しようとする仲氏の事業展開のゆくえは、今後の世界を見通す上でも示唆的なものになりそうだ。