過去の成功体験が次の革新を阻害する
経営理念の継承が大切であることを示す例として井原氏は、自身が担当したソニー・エリクソンの例を挙げた。エリクソンは基地局の技術に詳しいが、コンシューマー向けの事業が苦手だった。だからソニーはエリクソンと組んだ。
ソニー・エリクソンは当初、18カ月連続で赤字を出したが、ヒットモデルが生まれて利益に貢献した。ところが、社長が変わっていくに連れて、理念が継承されずに、事業がうまくいかなくなったという。
井原氏自身が関わった別の例からも教訓を得た。「いま好調な仕事でも、それを根底から覆す破壊的な技術、ビジネスモデルが常に存在することを肝に銘じなければならない。過去の成功体験が次の革新を阻害する。破壊的な技術開発を避けるのではなく、自ら積極的にそれに取り組む必要がある」(井原氏)
井原氏がテレビ事業を担当した時、当時のソニーはトリニトロン管を採用したWEGA(ベガ)ブランドのブラウン管テレビで大きな利益を上げていた。時代はちょうどシャープ先導で液晶テレビが立ち上がっていた頃で、ソニーのスタンスは「いかにブラウン管を主軸に、いかに生き残るか」だった。
その後、BRAVIAブランドで液晶テレビに参入し、何とか市場での存在感を取り戻した。しかし、技術の蓄積に時間がかかり、利益で遅れをとった。
講演の最後に井原氏は、盛田昭夫氏が言っていたという3つのクリエイティビティを紹介した。この3つのクリエイティビティがそろって初めて、ビジネスが花咲くという。
1つは、発明、発見、技術革新のクリエイティビティだ。これがないと始まらない。1つは、プロダクトプランニング(製品企画)とプロダクション(製品化)のクリエイティビティだ。よい製品を低価格で提供する。1つは、マーケティングのクリエイティビティだ。ウォークマンも最初は商売になるのか疑われた。