DNAにデータを格納するようになった未来には、コンピュータウイルスがデジタルな世界から生物学的な世界に、また生物学的な世界からデジタルな世界に感染するようなリスクが生み出されるのだろうか?現在のDNAストレージ技術であれば、セキュリティの脅威にはつながらないはずだ。ストレージに用いられるDNA鎖には数百程度の塩基しか存在しない。その一方、生物学的なウイルスの塩基配列は数万に及んでいる。Bornholt氏は「現実世界に影響を与えるウイルスを作り出すのは極めて難しい。われわれはこの件についてそれほど心配していない」と付け加えた。
とは言うものの、DNAストレージの実用化がしばらく先になるのは、その取り扱いの難しさだけが原因というわけではない。
DNAを合成する際と、その後で読み込む際に用いられる化学反応処理は、遺伝子配列のシーケンスを読み取るために用いられているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)という技術から派生したものであり、その反応過程にはとても長い時間がかかる。ワシントン大学のBornholt氏は、同大学の科学者らが最初に1Mバイトのデータを格納した際、1週間を費やしたと述べ、DNAを実用的なストレージ媒体にするには、生物学とコンピュータ科学におけるさらなる努力によってDNA技術を発展させる必要があると続けた。
また、DNAストレージの技術は高価でもあり、保存期間を延ばそうとすればするほど高価になっていく。DNAストレージの媒体となるらせん構造のコピーを多く合成すれば、DNAの保存期間は延びるものの、コストもそれに比例して高くなっていく。
このため、現在多用されているハードディスクというストレージ媒体がお払い箱になることはないだろう。しかし、データを10年から数百年にわたって保存するための媒体として、磁気テープを置き換える日がいつかはやって来るかもしれない。
Grass氏は「DNAストレージは情報のアーカイブ先として、あるいは自身が生きているうちや、会社が存続しているうちは絶対に残しておきたい本当に重要な情報の格納先として、真のアドバンテージを有しており、そこにDNAストレージが最初に実用化される未来がある」と述べた。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。