富士通研究所は1月10日、手のひら静脈を使ったスライド式の静脈認証技術を世界で初めて開発したと発表した。光の回折現象を応用した新しい複合光学素子を用いることで、小型モバイル端末のフレーム部分に搭載できる8mm幅の光学ユニットを実現したという。
今後、継続して光学ユニットと照合アルゴリズムの開発を進め、スライド式静脈認証技術の2017年度中の実用化を目指す。また、開発した複合光学素子などの新しい小型化技術により、さまざまな利用シーンに手のひら静脈認証の適用範囲が広がっていくことが期待されるとしている。
富士通研究所では、バイオメトリック認証技術の中でも、体内情報を利用するため偽造が困難など優れた特徴を持つ手のひら静脈認証を世界に先駆けて実現し、実用化してきているとのこと。その中で近年では、タブレット端末など小型モバイル端末の普及に伴い、幅の狭いフレーム部分への静脈認証光学ユニットの搭載が求められており、さらなる小型化が課題となっていた。
特に企業のユーザーでも安心して利用できるよう、さらなるセキュリティ向上と簡単な操作性を両立する小型の手のひら静脈認証機能の搭載が求められていたという。
手のひら静脈認証には、生体を透過しやすく安全な近赤外帯域の波長の照明を用いて撮像し、体内にある静脈のパターンを読み取る技術が用いられる。手のひら全体に対して均一の明るさで光を照射できるよう、その照明部は撮像部の周囲を取り囲むように配置されている。
この照明部が、光学ユニットの中で最も広い幅を取るため、小型化における課題となっていた。また撮像部についても、小型化すると手のひらの静脈パターンを読み取れる範囲が狭くなるため、登録時と照合時で読み取る範囲が大きくずれてしまう場合に認証されにくくなるといった難しさがあり、光学ユニットの小型化と確実な認証を両立する技術の実現が課題となっていた。
これに対し、今回開発した技術では、光学ユニットをモバイル端末のタッチパネル外周のフレーム部への搭載が可能な8mm幅に小型化し、タッチパネルをさっとなぞるだけで認証できる、富士通研が世界初だとするスライド式静脈認証技術を開発した。
開発した技術の特徴は以下の通り。
四角い形状かつ均一の明るさの照明を実現する光学設計技術
光の回折現象を応用した拡散機能と集光機能を兼ね備えた複合光学素子を新たに開発。下図に示す原理図のようにLED光源からの光を回折させて斜め上空へ照射し、照明部よりも広く四角い形状の領域を均一の明るさで照らせるようになった。
撮像する四角い範囲を狙って光を均一の明るさで照射することでLED個数を減らし、さらに照明部と撮像部を一列に配置した構造とすることで、幅の狭いモバイル端末のフレーム部に収まるサイズを実現している。
試作した光学ユニット(左:写真枠内、右:原理図)