初めて登場したときのモノのインターネット(IoT)は、実体を持たない単なるアイデアに見えたが、実はそうではなかった。IoTは実を結び、消費者はその恩恵を享受するようになった。スマート室温計、スマートトースター、スマートロック、スマート照明、「Echo」、「Google Home」と、その例を挙げれば枚挙に暇がない。IoTデバイスを使っている家庭や企業が増えれば、次に何が起こるかは想像が付く。セキュリティ侵害だ。
この数年間に、IoTを標的とした攻撃が数多く発生した。攻撃の頻度が増えているにもかかわらず、IoTの人気はさらに増している。われわれは、IoTの採用や導入をやめて、技術革命の成果を諦めるべきなのだろうか?
この記事では、ここ数年のIoTデバイスを狙った最悪の攻撃をいくつか紹介し、どうすれば被害に遭わずに済むかを考えてみたい。
1.Stuxnet
最初に、2010年から2014年の間に発生したStuxnetの攻撃から考えてみたい。というのは、この事件がIoTデバイスが持つ本質的な危険をよく表しているからだ。Stuxnetの標的となった産業用プログラマブルロジックコントローラ(PLC)は、現在の標準からすれば典型的なIoTデバイスとは言えないものの、基本的には「スマートコントローラ」であると考えていい。この攻撃は、イランのナタンズにあるウラン濃縮施設の稼働を妨害する目的で実行されたと言われており、多くの専門家は、Stuxnetが最大で1000台の遠心分離機を破壊したと考えている。Stuxnetは、PLCデバイスがWindowsマシンに接続されていることを前提としている点で、IoTに対する典型的な攻撃とは言えない。それでも、この事件はスマートデバイスがセキュリティ侵害を受ける可能性があることを示す、明確な警戒信号だったと言える。
では、この攻撃から得られた教訓は何だろうか?標準的なPCプラットフォームに依存するミッションクリティカルなデバイスは、どうしても必要でない限りWANに接続してはならないこと、そして必要のない人員は、デバイスにアクセスできないようにすることだろう。
2.ボットネット「Mirai」
2016年には重大な攻撃がいくつも発生した。その1つがボットネットのMiraiだ。このボットネットは多くのIoTデバイス(主に古いルータとIPカメラ)に感染し、それらを使ってDNSプロバイダのDynにDDoS攻撃を仕掛けた。Miraiの攻撃で、Etsy、GitHub、Netflix、Shopify、SoundCloud、Spotify、Twitterなどをはじめとする、多くの大手ウェブサイトがダウンした。攻撃では、古いバージョンのLinuxカーネルを使用しているデバイスが標的とされ、多くのユーザーがデバイスのデフォルトユーザー名とパスワードを変更していない事実が悪用された。
この攻撃から得られる教訓は、それほど単純ではない。多くのメーカーは、製造コストを抑えるためにデバイスのストレージ容量を最低限に切り詰めているため、Linuxカーネルのアップデートができるだけの十分なストレージがデバイスにない。このため、多くのIoTデバイスが、脆弱性のあるカーネルを使用している状態だ。メーカーには、この問題を認め、すべてのデバイスで定期的にカーネルのアップデートができるようにする責任がある。この問題が解決されない限り、今後もIoTデバイスは攻撃の被害を受け続けるだろう。
もちろん、IoTデバイスにパスワードが設定されている場合、ユーザーはただちにデフォルトのパスワード(可能であればユーザー名も)を別のものに変更すべきだ。
3.フィンランドの暖房停止事件
2016年11月、サイバー犯罪者の攻撃で、フィンランドのラッペーンランタ市にある2つの建物の暖房が停止した。これもDDoS攻撃によるもので、暖房管理システムが再起動を繰り返し、暖房が入らない状態になった。この時期のフィンランドでは、気温が氷点下を大きく下回るため、これは重大な問題だった。
この事例から得られる教訓は、ネットワークがDDoS攻撃(あるいはほかの攻撃)を受けていないか、頻繁に監視する必要があるということだ。第2の教訓は、ネットワークに疑わしい兆候が現れたら、ただちに対応すべきだということだろう。