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「運用でカバー」という魔法の言葉--生まれた理由と功罪 - (page 2)

武田一城

2017-08-02 07:00

「運用でカバー」に対する問題意識

 もちろん、このような状況をおかしいと感じている人は少なくない。この状況の改善に努めている人も少なからず存在するだろう。それでもこの構図を覆すことは難しく、今後も続いていくと思われる。

 その理由は、前述したITベンダー内部の組織構造にある。端的に言えば、このような組織の経営陣は、花形である開発部門の出身者が多いからだ。過去にプロジェクトマネージャー(PM)などを経験した開発部門の出身者がその成果を認められ、管理職や経営者の地位に上り詰めている。この歴史的な経緯を踏まえた多段の組織構造が、個人の努力などでおいそれと変わるわけがない。

 つまり、「運用でカバー」という情報システムのモデルは、経営層を含むITベンダーの中核メンバーが今日の地位を築いた過去の成功例そのものなのだ。これを否定することは、現在の彼ら自身の立場を脅かすことに等しい。それらを改善する権限を持った経営層は、上記の理由でその状況を改善することはなかなか難しい。もちろん、弱い立場の運用の現場がこの構造に風穴を開けることなど、もっと難しいだろう。

 さらに、大手通信キャリアやコンピュータメーカーなどになると、システム運用を専門の子会社へ全面的に委託するケースも散見される。それらの企業では、上述の力関係に出資の構造なども加わり、開発を担う親会社から出向・転籍した人が子会社の経営層や部長職といったポジションを占めているという状況だ。その組織の規模が大きくなればなるほど、変革はさらに難しい。大手通信キャリアやコンピュータメーカーなどの老舗企業は、まだまだIT業界の中心であり、日本のこのような構造が急速に転換することはないだろう。

「運用でカバー」が日本にもたらした功績

 「運用でカバー」という魔法の言葉は、あくまでシステム開発側から見た表現だ。システム運用の現場側から見ると、都合の悪いことの丸投げといえる状況であることは理解いただけたと思う。

 しかし、この言葉の本質が完全な悪かと言うと、そうではない。そもそも、「運用でカバー」できてしまうということ自体、実は非常に素晴らしいことだからだ。

 当然ながら、要件定義や基本設計を担うのは人間だ。トラブルの全てを想定する事は難しい。だからこそ、想定外や例外処理が少なからず発生する。それらの想定外に都度対応するのが運用の現場になる。事前に作成した運用ルールにない不測の事態が発生しても、その時点で出来る限り対応し、再発防止策を考える。再び同様の問題が発生した場合に備えて、運用ルール自体もブラッシュアップさせてしまう。

 仕様外の要件や依頼が発生する度に、運用の現場の努力で何とかできてしまうことは、なんと理想的な環境であることだろうか。このようなことができるのは、世界中を見渡しても、(良くも悪くも)日本しかないだろう。しかも、これを実施しているのは、報酬や地位で厚遇されることが少ない(または、報われないことが多い)運用部門である。日本の情報システムは、現場の圧倒的な犠牲と献身によって成り立っているのだ。

 運用の現場にとって、彼らが提供しているサービスレベルと受け取る対価や評価は、正直なところ全く釣り合わないと言って良いだろう。しかし、この過剰とも思える極めて高いサービス品質が、日本のさまざまな産業を幾度となく救ってきたはずである。1980~1990年代の日本全盛期をITの運用という面から支えてくれた隠れた功労者であったのだ。このことは「運用でカバー」による大きな功績だ。

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