IoTに20億ドルを投じるーー2016年秋、トップ自らの発言とともに顧客のデジタルトランスフォーメーションへのコミットを見せたSAP。5月の「SAPPHIRE Now」ではIoTを含むイノベーションキット「SAP Leonardo」を正式発表し、IoTにとどまらない最新技術の活用を支援するとした。
IoTは産業を大きく変え、企業の競争の構図を塗り直しかねないものだ。SAPは既存顧客をどう支援するのか。Industrie 4.0事情にも明るいNils Herzberg氏(IoT担当グローバル共同トップ)にSAPのIoT戦略、Industrie 4.0の課題などについて話を聞いた。
Industrie 4.0事情にも明るいNils Herzberg氏
ーー2016年9月にIoTに20億ユーロを投じると発表しました。その後の取り組みを教えてください。
「SAP Leonardo」という名称を付け、ポートフォリオを構築した。SAPPHIREでは、IoTから拡大してイノベーションのポートフォリオ全体をSAP Leonardoとすることにした。これにより、SAP IoTはSAP Leonardo IoTとなり、このほかにもSAP Leonardo Machine Learning、SAP Leonardo Analyticsなどがある。
ただし、これらの変化は名称レベルであって、顧客にとっての変化はない。われわれのIoTへのコミットも変わっていない。プラットフォームの機能の拡充やアプリケーションなど、2016年9月に発表した通りに実行している。SAPPHIREではデジタルツインを展示したが、これは買収したノルウェーのFedem Technologyの技術であり、接続部分ではPLAT.ONEへの投資の結果を届けている。このほかにも、Leonardoのポートフォリオの1つであるビックデータでは、2016年に買収したビックデータ企業Altiscaleの技術が入っている。
ーーなぜSAP Leonardoとして展開する必要があったのでしょうか。
実際にIoTシステムを構築して成果を出すためには、デジタルツインやデバイス管理などのIoT技術に加えて、ビックデータ技術が必要だ。また、クラウド、アナリティクス、機械学習なども利用しなければならないし、将来はブロックチェーンも必要になる。Leonardoはこれらを全てそろえたツールボックスとなる。
SAPの顧客は、”バイモダール”ITに向けた取り組みを進めている。バイモダールとはモード1とモード2という2種類の性質と速度が異なるITを持つものだ。年に1度のアップグレードするような安定した土台としてのビジネスプロセスのプラットフォーム(モード1)、そしてイノベーションが起こるプラットフォーム(モード2)で、SAPの既存の技術資産がモード1ならば、SAP Leonardoはモード2となる。例えるならモード1が石、モード2はスポンジで、SAPはSAP Leonardoによりスポンジと石、そしてその間の統合技術を提供できるようになった。
競合は石かスポンジのどちらかしか提供していない。両方を組み合わせることができるのはSAPのみだ。
ーーオープン性をプッシュしています。
IoTではさまざまな意味でオープンである必要がある。例えば開発者コミュニティにオープンでなければならない。そこでSAPはCloud Foundry(オープンソースのPaaS)を積極的に活用している。SAP Leonardoではバックエンドに対してもオープンで、「Hana Cloud Integration」を利用してSAP以外のバックエンドと統合できる。
SAP Leonardoの土台はSAP Cloud Platformであり、クラウドとオンプレミスのハイブリッドなど統合プラットフォーム、そして拡張のためのプラットフォームとして位置付けている。これを利用してクラウドソリューションを拡張できる。名称を変更(SAPは3月、「HANA Cloud Platform」から「SAP Cloud Platform」に名称変更している)した背景もここにあり、多目的なプラットフォームとして進化している。