富士通、コールセンター向けチャットボット基盤--少量の教師データで高い回答精度

藤本和彦 (編集部)

2017-11-09 07:00

 富士通は11月8日、コールセンター向けのチャットボット基盤「FUJITSU Business Application CHORDSHIP powered by Zinrai」を発売した。チャットボットを活用したコンタクトセンター業務のコンサルティングから導入、構築、運用までを一貫して支援する。税別価格は月額28万円から。12月に提供を開始する。2020年度末までに売上350億円を目指す。

 コンタクトセンターにチャットで寄せられる問い合わせに対して、人工知能(AI)を組み込んだチャットボット「Digital Agent」がオペレーターの代わりに回答する。言葉の揺らぎや類義語などを認識し、問い合わせの内容を高い精度で絞り込みながら企業内に蓄積された問い合わせ対応のナレッジやFAQから関連する情報を抽出する。

CHORDSHIPのサービス構成
CHORDSHIPのサービス構成

 ディープラーニング(深層学習)型のAIエンジンに加えて、「対話・機械学習ハイブリッド型」と呼ぶAIエンジンを搭載する点が特徴。AI技術「Human Centric AI Zinrai」を使って事前に膨大な教師データを学習させなくても、企業が保有している既存データのみで運用可能としている。

 同社の調査では、少量の教師データを使ってディープラーニングを実践したところ、回答精度は50%程度だったという。回答精度を上げるには膨大な教師データが必要となることが分かった。一方、ハイブリッド型では、用語辞書と個別辞書、ルールベース型の対話制御を組み合わせることで、正答率を80%超まで高めた。

Digital Agentのサービス構成
Digital Agentのサービス構成
各社のAIを使った正答率の計測
各社のAI技術で正答率を計測

 「コールセンターでは人手不足が深刻な問題となっている。顧客対応に追われてナレッジの蓄積が進んでいないのが現状だ。教師データを作るためには膨大な時間とコストがかかる」(富士通 執行役員 デジタルフロントビジネスグループ 副グループ長 今田和雄氏)。この点において、「ハイブリッド型」はコールセンターでの活用に適しているといえる。

 ウェブサイトやLINE、Skype、Facebookなどと連携できるインターフェースを備える。Digital Agentは、クラウド基盤「FUJITSU Digital Business Platform MetaArc」のSaaSとして提供する。

 Digital Agentでは対応できないような複雑な質問や、利用者の意図する回答ができなかった場合は、オペレーターにエスカレーションして有人チャットによる継続対応を可能にする「有人チャット運用サービス」も提供する。専門スキルを持ったオペレーターがチャットによる継続対応を行うとともに、その中で得られた新たなナレッジを精査・蓄積していくことで、運用開始後の回答精度の維持と向上につなげる。

 「AIと人のシームレスな連携を実現する。実践知を蓄積し、AIに活用することで、自動回答率を高めるサイクルを回す」(今田氏)。11月にはAIチャットセンターを開設し、センター構築から運用支援までをサポートする。

チャットボットの有用性を実証実験

 オリエントコーポレーションでは、24時間365日のウェブサポートによるリアルタイム回答を実現した。公開FAQの自動応答やFAQナレッジ・辞書データの整備に活用している。チャットボットサービスの有用性と導入効果の見極めを終え、本格導入に向けた準備を進めている。LINE連携や有人チャット連携も検討している。

 川崎フロンターレは、サポーターや地域との新たなコミュニケーションチャネルとして活用している。マスコットキャラクター「ふろん太」の裏でチャットボットが稼働しており、問い合わせに自動応答するほか、顧客の生の声を集めて戦略立案やサービス改善に生かすとしている。

 家事代行シェアリングを展開するタスカジも問い合わせの自動応答によってメールの問い合わせ件数を減少させ、自動応答と有人対応を明確化した。「食あたりが起きたら補償はどうなる?」「テレビが壊れた弁償してもらえるの?」をはじめとする「損害賠償」に対する問い合わせの表現への揺らぎを吸収し、該当する公式FAQへの的確な誘導を可能にしている。今後は有人チャットとの連携とLINE対応を計画している。

 「顧客接点におけるパラダイムシフトが起きている。生活者からの信頼を獲得することが目的となり、心で満足する『感情的価値』が求められるようになってきた。利用体験の向上には、『ネガティブ体験の解消』や『素早いフィードバック』などコンタクトセンターへの期待が高まっている」(今田氏)

 その上で、「消費者の価値基準の多様化に伴う顧客接点力の強化が急務の中、採用難や離職増といった人材不足が深刻な状況にある。AIなどの技術を活用した顧客との新たな関係性構築に取り組む必要がある」(同)とした。

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