生産性向上を前提にしたソフトウェア開発に警鐘--IPA

ZDNET Japan Staff

2018-03-06 17:13

 情報処理推進機構(IPA)のソフトウェア高信頼化センターは3月6日、ソフトウェア開発の傾向を分析した結果を発表した。ソフトウェアの信頼性が向上している一方で、生産性は低下傾向にあることがデータから判明したという。

 この分析は、IPAが10月発行予定の「ソフトウェア開発データ白書2018-2019」を作成するために収集したソフトウェア開発プロジェクトのデータをもとにしている。

 IPAによれば、近年のソフトウェア開発では、生産性が向上していることを前提にしながら、実際には予算管理や価格交渉などの場面で、年率5%の開発コスト削減や前年度比10%のライン単価の低減といった強い値下げ圧力にさらされるケースがある。このためIPAは、データ分析から実情を把握することで、目標設定や生産性管理の適正化につなげたいと説明する。

 分析結果では、例えば、新規開発プロジェクト全体のSLOC(Source Lines of Code)の生産性は低下傾向にあった。中央値で見た場合、2004~2010年度(前半)では6.0 SLOC/人時だったのに対し、2011~2017年度(後半)では4.6 SLOC/人時と、生産性が約23%減少した。


新規開発におけるSLOC生産性の推移(IPA資料より)

中央値の比較では生産性が低下している(IPA資料より)

 性能・効率性要求レベルや保守性要求レベルは上昇傾向にあり、性能・効率性要求レベルのプロジェクトの割合は前半の約37%から後半では約50%に、保守性要求レベルが高いプロジェクトの割合は約26%から約49%に増えていた。


性能・効率性要求レベルや保守性要求レベルの高いプロジェクトの割合推移(IPA資料より)

中央値の比較では要求レベルの高いプロジェクトが増えている(IPA資料より)

新規開発におけるSLOC発生不具合密度の推移(IPA資料より)

中央値の比較では不具合密度が減少し、品質が向上(IPA資料より)

 また、新規開発プロジェクトの上流工程で不具合摘出比率が70%以上となるグループは、生産性の低下傾向が見られず、SLOC不具合密度が低いなど信頼性も高い状態にあることが分かった。


上流工程で不具合摘出比率が70%以上となるプロジェクトでは、生産性が向上し、不具合密度は低下している(IPA資料より)

 これらの結果からIPAは、データの裏付けがない過度に高い生産性目標は、リスク増大や品質低下を招きかねないと指摘する。近年における組織の生産性の推移を踏まえた妥当な範囲で目標を設定し、評価すべきだとするほか、品質要求レベルが高いとSLOC生産性が低くなるため、品質要求レベルに見合った目標を設定すべきだと勧告する。

 一方、品質と生産性の両立には上流工程がポイントになり、作り込み品質の向上を意識した定量的管理や開発要員のスキルアップと確保を図ることが重要だという。IPAは開発側と発注側の双方がデータに裏付けられた共通認識をもとに、ソフトウェア開発プロジェクトを検討・計画すべきだとしている。

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