RPA(Robotic Process Automation)を用いた業務改革に対して、日本企業の期待はますます大きくなっている。大手銀行による生産性向上の取り組みが大きく報道されているが、これらは一部に過ぎない。大手企業でもさまざまな用途で活用が着々と進んでおり、その規模も拡大の傾向にある。
前回は、RPA化を推進するための3つのステップと、導入初期段階(トライアル)を成功に導くポイントを紹介した。今回はいよいよ「本格導入」に向けた論点を整理する。

導入初期段階で高い評価を得られたら、次はどのように全社に拡大するかを検討する必要がある。失敗せずにRPAの効果を最大限に引き出すにはどうすればいいのだろうか。これまでと違って関係者も多岐にわたり、RPAを企業全体の業務インフラとして浸透させることになるため、失敗した場合の負の影響も大きくなる。従って、成功に向けてしっかりと検討しなければならない。
本格導入の成功を左右する代表的な論点として下図の5つが挙げられる。本稿では、これらの各論点について解説する。

1.「直下型RPA改革」と「現場型RPA改善」の進め方は?
「直下型RPA改革」と「現場型RPA改善」という言葉は、恐らく大部分の読者が初めて目にするのではないだろうか。本稿を担当するアビームコンサルティングがRPAによる業務改革を多く支援する中で生み出した概念である。
前者はプロジェクト側が対象業務を絞ってロボット開発を行い、早期に導入効果の最大化を狙うものである。後者は現場業務に近いメンバーを選び出し、ロボット開発のナレッジを共有することで、現場主導による地道な改善活動を進めるものである。

この2つのパターンはどちらかを選ぶというものではなく、企業の状況に応じてバランスよく使い分けることが重要である。「直下型」だけでは早期に大きな効果を得られるがRPAが社内に広く根付かない。一方、「現場型」だけだと効果が表れるまでに時間が掛かる。
では、どのように「直下型」と「現場型」を使い分けていけばいいのか。アビームコンサルティングの今までの経験則から、RPA化の対象となる業務には「2:8の法則」が表れることが分かっている。これは、対象業務の期待効果を大きい順に並べていくと、上位20%の業務で効果の80%を占めるという法則である。この法則は多くの取り組みからほぼ確証が得られている。

この法則に従えば、上位の業務に集中的に投資してロボットを開発し、早期に大きな効果を上げると同時に、それ以外の業務についてはじっくりと改善することで効果を波及させ、RPAを組織に根付かせることができる。このような全体感を持った上で、「直下型」と「現場型」をどのようなスピードで進めるかを計画することが肝要である。
2.経営戦略とのひも付けは十分か?
RPAは生産性を大きく高める可能性を秘めている一方で、進め方を誤ると「現場の仕事を奪う」「リストラの前触れ」というようにネガティブに捉えられてしまう恐れがある。いったんそのような認識が広まってしまうと、そのイメージを覆すのは容易ではない。本格展開を開始する上では、何のためにRPAを導入するのかという経営戦略とのひも付けをしっかりとすることが重要である。
下図はRPA化の目的を経営戦略とひも付ける視点の類型である。

「生産性向上=人減らし」ではなく、将来迫り来る人手不足や新たな事業創造に向けた余力創出といった、未来志向の経営戦略とひも付けることで納得性と推進力を引き出せる。さらに、前向きな事例を共有し、経営への貢献として積極的に評価することで取り組みは加速する。
RPAによる業務改革を進める大手製造企業では、将来の海外展開を含めたさらなる成長に必要な人材余力の目標を各部署に展開し、改革プロジェクトの中で目標の進展度を厳しく管理している。目標を達成できない部は経営層へのリカバリ策の提出を求められるといった緊張感のある運営を行っているが、成長に向けた取り組みであればこそ各部署は目標を受け止めて取り組んでいる。
3.対象業務を発掘するアプローチは?
検討の初期においては、RPA化の対象となる業務の発掘にどこから手を付けていいか分からないという声もよく聞かれる。各対象部署と一緒に業務の洗い出しを行うことになるが、場当たり的に進めてしまうと思ったより対象業務が少ないという結果になるリスクがある。現場側に「どういう業務がRPAに向いているのか」を理解してもらうことで、討議が円滑になり抽出も容易になる。
下図は多数のRPA導入プロジェクトで作成したロボットを分類し代表的な用途を示したものである。

適用業務の具体例とともに、このような分類を理解して対象業務選定に臨むことで、効率的にRPA化による効果が望める業務を発掘できる。