日米欧の金融業界に見る「データレイク」の進め方

國谷武史 (編集部) 2018年03月29日 06時00分

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 IT業界では数年ほど前から、多種多様な膨大なビッグデータを集約する基盤の概念として「データレイク(データの湖)」という言葉が提唱されている。米Clouderaもそうしたベンダーの1社だが、このほど来日した欧州中東地域金融サービス担当ディレクターのRichard L. Harmon博士が、データレイクに対する欧米と日本の金融業界におけるアプローチの違いについて解説した。


米Cloudera EMEA Financial Services ディレクターのRichard L. Harmon氏

 同社は、「cloudera sdx(shared data experience)」と呼ばれるクラウド環境に対応した機械学習と分析向けのデータ基盤ソリューションを展開している。企業利用に耐えるべく、セキュリティ、ガバナンス、ワークロード管理、データ集積・複製の4つの軸で一貫性のあるビッグデータの管理と活用を実現するとし、Harmon氏によれば、金融業界では(1)顧客に対する洞察を深める、(2)犯罪から事業を保護する、(3)ビジネスを予測する、(4)デジタル変革を実現する――の4つの目的で引き合いが増えているという。

 ビッグデータ活用には多くの業種が期待を寄せるが、特に金融ではFinTechの台頭を通じた異業種による金融サービスへの参入、マネーロンダリング(資金洗浄)やサイバー攻撃などによる犯罪被害の拡大、監督機関による規制強化などが背景にあり、経営を取り巻く環境は厳しさを増す。

 25年以上にわたって金融や投資の市場でリスクマネジメントやビジネス分析を手掛けてきたHarmon氏は、「一般的にデジタル変革とは、ビジネスの成長を目的にしているが、金融ではリスクや犯罪がもたらす損害からビジネスを保護するという目的も伴う」と話す。欧米の金融機関ではこうした課題や問題に、データレイクというアプローチで一気に対応を試みる動きが出始めた。

 例えばカナダの銀行は、トランザクションデータやソーシャルメディアの情報、顧客対応の記録といった異なるデータソースを一元的に集約するデータレイクを構築し、分析目的に応じてデータレイクから必要な情報を取り出し、活用する。そのプロジェクトでは、不正対策やリスク管理、資金洗浄対策など15の分析用途を定め、総量で1ペタバイト規模になるデータレイクを13カ月で構築した。現在は、12人のHadoop管理者が運用し、約200人の分析担当者がデータを解析している。

 また、2019年春頃に欧州連合(EU)から離脱する英国(通称「Brexit」)では、金融機関が法人に対する貸付リスクをシミュレーション可能なシステムの構築を進めているという。Brexitがもたらす経済的な影響はあまりに未知数で、貸し倒れリスクが一気に高まる恐れもあることから、このシステムでは取引実績など信用評価に用いたデータだけでなく、貸付候補先の法人に関係する可能性も含めてあらゆるニュースやソーシャル上でのデータも加味して評価できるようにする。


金融業界が“デジタル変革”として取り組まなければならないというテーマ群。この基盤が「データレイク」に当たり、Clouderaが狙うマーケットにもなっている(Harmon氏の説明資料より)

 「日本も米Trump政権による鉄鋼とアルミニウムの輸入規制措置の対象になってしまったが、この影響は当然ながら鉄鋼メーカーだけでなく納入先の企業や関連する取引先のサプライチェーン全体に及ぶ。そのような規模でリスクを分析するには、データレイクのような基盤がなければ難しい」(Harmon氏)

 一方で日本の金融機関についてHarmon氏は、現段階では、例えば顧客動向の分析といった個別の目的からスタートしており、現在はその手法がある程度確立されて、ソフトウェア技術を利用したプロセスの自動化という次の段階に移りつつあると見る。いわゆる「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」の一環で、データレイクとは異なるように感じるが、Harmon氏の見解では、これもデータレイクのビッグデータを活用していく1つのアプローチになるという。

 「重要なことは、『デジタル変革』という大きな目的が個々の小さな取り組みの積み重ねによって達成される点だ。個々の取り組みとしてデータやシステム、目的がサイロ化したままでは、成果はそこだけにとどまる。データレイクという大きな枠組みで、個別の取り組みの成果が有機的につながっていくようにすべきだ」(Harmon氏)

 IT業界が“ビッグデータ”を提唱して10年ほどだが、IT業界より歴史の長い金融業界にとってはまだ新しい領域と言える。Harmon氏はClouderaのソリューションが金融業界にも通用する信頼性や性能、拡張性を持つと話す。ここには幾分マーケティング的なメッセージが含まれるものの、壮大なビッグデータの活用シーンを描く金融業界の取り組みに耐えるテクノロジの動向として注目される。

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