ドラッグ&ドロップでAIを搭載したカスタムアプリを作成できるようになる
「いろいろなITベンダーがAIを出していますが、我々のAIは『Einstein(アインシュタイン)』といいます。AIを構築するには、大量のデータとそれをうまく扱えるデータサイエンティストが必要です。しかし、大量のデータを保持するのは難しく、データサイエンティストの数は多くありません。Einsteinは“AIの民主化”を目指して2016年秋に発表しました」(伊藤氏)
第1世代のEinsteinは、Sales CloudやService Cloudに実装された。AIが見込み客や商談の確度を過去の勝ちパターンから分析し、数値化するという機能だ。いわゆるリードスコアリングといわれるもので、おおよそ半年以上、Sales CloudやService Cloudを使っていると、会社の中での勝ちパターンが出来上がるという。例えば、社長や役員クラスだとすぐ商談になりやすい商材もあれば、現場の開発者に振った方が商材として響くもの、などが分かるという。
しかし、当時から、自社で作成したカスタムアプリにもAIを組み込みたいという要望が上がっていたという。そこで「Einstein Prediction Builder」という機能を開発した。自社で開発したSalesforceアプリに関しても、マウス操作だけでAIを利用できるようにするものだ。国内でも年内に本格的に提供開始する予定だ。
実際に、スポーツジム経営企業を想定したデモを見せてもらった。会員管理のためのカスタムアプリにAIを導入するというものだ。スポーツジムのビジネスモデルでは、できるだけ長く契約してほしいもの。例えば、ゴールド会員がブロンズ会員になると、そのままフェードアウトをしやすいといった傾向があっても、通常は経験と勘だけで気が付き、個別にフォローをするしかない。しかし、人の手を使うのは大変だし、見逃しも出る。
そこで、データが蓄積されている前提で、そのアプリの中に「退会の可能性」というフィールドを作成。そこに、AIの診断結果を表示するように設定する。すると、24時間かけて、過去のデータから予測するためのAIを構築してくれる。実際に、会員のステータスを更新すると、退会可能性が跳ね上がった上、個別にフォローアップを実施するようにタスクが登録された。
「退会しそうな会員をAIで判別するだけでは、それで終わってしまいます。Salesforceであれば、ビジネスプロセスに組み込むところまで設定できます。例えば、退会の可能性が高まったお客さまがいれば、個別にフォローアップをしましょうという指示を自動で出せます。社内SNSに自動投稿することも可能です。Lightning Platformならマウス操作だけで行えます」(伊藤氏)

Prediction Builderで利用する項目を選択する

マウス操作でプロセスを作成できる

ゴールド会員からブロンズ会員に変更したところ退会可能性予測が63%になり、タスクが追加された
最後に、ローコード/ノーコード市場について聞いてみた。
「ローコード/ノーコード市場が伸びているというより、そこには潜在的に市場があると考えています。ローコード/ノーコードプラットフォームに触れ、自分でアプリをカスタマイズすることで、ビジネスのスピードが速くなり、イノベーションにつながっていくと思います」(伊藤氏)
Lightning Platformは、Sales CloudやService Cloudのシステム基盤であり、かつ、ローコード/ノーコードを実現するプラットフォームとして、企業が必要とする機能をシームレスに網羅できる。大企業向けというイメージよりも、もっと中堅中小企業でも気軽に導入できるサービスだというのもお伝えしておきたい。
セールスフォースは、米Forbes誌が選ぶ「世界で最も革新的な企業」の常連で、2017年は1位に選ばれている。今後も、ローコード/ノーコードプラットフォーム市場の最前線を走り続けることは間違いない。まずは、この夏に予定されている大型アップデートに注目したい。
- 柳谷智宣(やなぎやとものり)
- ITライター
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1972年生まれ。1998年からIT・ビジネスカテゴリのライターとして、さまざまな雑誌、書籍、ウェブ媒体で執筆している。近年は、クラウドサービスやスタートアップ関連の動向を注視しており、多数の企業に取材、実際にプロダクトに触れることも多い。飲食店も経営しており、「原価BAR」を都内4店舗、「花円(KAEN)」をウランバートルにて展開中。著書に『銀座のバーがウイスキーを70円で売れるワケ』『Twitter Perfect GuideBook 改訂版』『クラウドの達人はなぜChromeを使うのか』『Dropbox WORKING』など。