量子コンピュータの進歩が既存の暗号化技術を無力化する--IBM Researchが警告

Tom Foremski (Special to ZDNet.com) 翻訳校正: 編集部 2018年05月21日 10時33分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 IBM ResearchのディレクターであるArvind Krishna氏は、量子コンピュータにより、現在実用化されている最強の技術で暗号化された機密データでさえも即座に解読できるようになるだろうと警告した。量子コンピュータ技術の進歩によって5年少しで起こり得るという。

 「10年以上にわたって自らのデータを確実に保護したいと考えているのであれば、暗号化の方式を今、変更すべきだ」(Krishna氏)

 Krishna氏の発言は、カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたChurchill Clubのミーティングにおける、量子コンピュータの商利用に関するパネルディスカッションでのものだ。

提供:Churchill Club
右から2人目がKrishna氏。
画像提供:Churchill Club

 同ディスカッションに参加したスタンフォード大学の物理学教授であるKam Moler氏も、データの保護に必要な対策をすべて実施すれば安全だと多くの人は感じているかもしれないが、その幻想は量子コンピューティングによって破壊されると述べた。

 1980年代以降の研究で、量子コンピュータは公開鍵暗号技術の基礎をなしている、桁数の大きな合成数の素因数分解に長けていることが明らかにされている。ただ当時の技術では、十分な計算能力を持った量子コンピュータは実現できなかった。

 しかし近年になって、新素材や低温物理学の分野の研究が進み、量子コンピューティングに関する数多くのブレークスルーがもたらされた。その結果、大規模な商用量子コンピュータシステムが5年以内に現実のものとなり、利用できるようになると考えられている。

 これに対抗するかたちで、量子コンピュータを用いた攻撃に耐えられると考えられる、格子場理論(Lattice Field)という理論体系に基づいた暗号化技術が考え出されているとKrishna氏は語った。

 「幸いなことに、これは現在の暗号化技術と同程度の効率となっており、今まで以上にコストがかかるというものではない」(Krishna氏)

 量子コンピュータは非常に高価でまだ一般に普及していないが、かつては手に負えないと思われていた問題を解決する可能性を秘めている。「IBM Q」は商用の量子コンピューティングシステムを構築する取り組みだ。IBMがクラウド経由で提供する量子コンピューティングのインターフェースを利用してアプリケーションを実行した人は、すでに8万人近くに達しているという。

 すべてのアプリケーションが量子コンピュータに向いているわけではない。量子コンピュータが能力を最も発揮するのは並列実行可能な細部に分割できる問題の解決だが、これには異なるコーディング技術が必要になる。

 量子コンピュータは計算量の大きな問題を解決するだけでなく、サーバファームが急増し、ビットコインのようなアプリケーションによるコンピュート能力の要求が増加するなか、消費電力を大幅に削減できる可能性もある。こういった計算処理は数ワット程度しか必要としない一方、従来のシステムで実行した場合、複数のサーバファームが必要となるはずだ。

 Moler氏によると、量子コンピュータの実現には、絶対零度に近い低温下で特定の性質を示す新素材といった、さらなるブレークスルーが必要だという。

 量子コンピュータでは、量子ビット(キュービット)を構成する単独原子を定位置に固定するが、気温の変動によってエラーの元となる大量のノイズが発生する。また、キュービットを追加するとシステムの計算能力は飛躍的に高まるものの、これによってエラー訂正のためのキュービットもさらに多く必要となる。

 なお、問題の種類ごとにどれだけのキュービット数が最適となるのかは、現在のところまだ明らかになっていない。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んだ方に

関連ホワイトペーパー

連載

CIO
シェアリングエコノミーの衝撃
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「展望2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
エンドポイントセキュリティの4つの「基礎」
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
エンタープライズAIの隆盛
インシュアテックで変わる保険業界
顧客は勝手に育たない--MAツール導入の心得
「ひとり情シス」の本当のところ
ざっくり解決!SNS担当者お悩み相談室
生産性向上に効くビジネスITツール最前線
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell Technologies World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]